検索窓
今日:25 hit、昨日:4 hit、合計:111,091 hit

第捌拾捌戦 野暮 ページ41

如何せん、山姥切も長門も不器用すぎて、お互いのことが伝わってない。

「(いつか話してくれたら良いのに)」

デリカシーが無い訳ではないが、野暮な好奇心だけは人一倍強かった。

「ところで長門君ってずんだ餅好きかな?おやつに作ろうと思うんだけど」

「訊いてこようか」

「うん、頼むよ」

◆◇◆

燭台切と長谷部が厨房で甘味談義をしていた頃、長門はすぐには審神者部屋に戻らず、縁側でお茶を飲んでいる今剣と三日月の許へ向かった。

「あるじさま!きてくれたんですね!」

「“約束”ですからね」

少し嬉しそうな弾んだ声音と共に、今剣は長門に飛びつく。首に手を回して飛び付いて来た今剣を造作も無く受け止めた。
朝の一件後、朝食を終えたら一つだけ今剣のお願いを聞くという約束を交わしていた。それが山姥切と揉める引き金になってしまったのだが、長門は今剣に悟られぬように振る舞う。

「失礼」

「三日月さん?どちらに?」

「厠に行ってくる。年を取ると近くなって敵わんよ」

陽気な笑い声を上げる天下五剣は、何を思ったのか、ふらっと立ち上って何処かへ行ってしまう。厠へ行くという名目で席を外したのだろうと長門は察した。
三日月は常人が思っている以上に敏い。今剣と主の話に邪魔をするべきではないと判断したのだろう。本当のところの真意はわからないが。

「それで……お願いと言うのは?」

色白く薄い銀髪の少年の頭を何度も撫でる。少し間を置き、今剣は消え入りそうなか細い声で口を開いた。

「……岩融にあいたいんです」

三条派の薙刀・岩融。今剣のかつての主だった源義経の主従、武蔵坊弁慶の薙刀である。
今剣を具現した老人が喚び出したが、前任の着任後、程なくして厚樫山に出陣したきり、消息不明となった。

「ぼくは岩融がいなくなったあと、三日月さまとはなれにゆうへいされました……。岩融は……よわいぼくをかばって……それで……うっ……」

「今剣君、よく耐えました」

消息不明というのはあくまでも口実上の様で、実際は“破壊”だったという。今剣が出陣するはずだったところを岩融が代わりに出撃し、他の刀剣と共に検非違使に破壊されたのだと。
必死に零れ落ちる涙を堪えながら、今剣は膝の上の拳を握り締める。長門は、自分より二回り小さい子供の身体を引き寄せ、軽く背を叩いた。

「昔、古い知り合いの方から言われた言葉があるんです。……“世は一期一会なり、されど縁を大切にすれば縁は帰って来る”と……」

第捌拾玖戦 達観→←第捌拾漆戦 無責任



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (134 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
355人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。