第捌拾戦 連鎖 ページ33
誰も救われない世界で、今まで成して来た事の意味はあるだろうか。
毎日悪夢を見ては同じ事を考え続け、答えが出ないと諦めてきた。その繰り返しで、日に日に負の連鎖が続き、精神的余裕すら無くなり始めた。その最中、こうして未来へ連れて来られた。
「(……やめよう)」
悪い考え事は早々に止め、起き上がると布団を片付けて井戸へ向かう。まだ日が昇り始めて間もない早朝の水は、目を覚ますには十分である。
寝汗を拭ったあとは、冷えた身体を温める為に真剣で素振りを始める。常日頃から持ち歩いている太刀の重さも、感触も全身で覚えていた。
ひたすら無心で軍刀を振り続け、朝日も少しずつ高くなってきたようで、残暑の本丸にセミの鳴き声が木霊し始めた頃。
「長門さん、お邪魔しますね〜」
「……あ、東さん。おはようございます」
「おはようございます。あの、こんのすけ居ます?」
背後から声を掛けられ、素振りに熱中していた所為で不意打ちに驚かされた長門は、真剣を鞘に納めると、自分の担当に向き合う。
珍しく朝早くからやってきた東に、どうしたのか聞いてみれば、こんのすけに用があるらしい。
「こんのすけさんでしたら、昨晩は山姥切さんと一緒に寝てましたね」
「やっぱりここに居たんですね……」
寝ている山姥切を起こさないように注意しながら、長門は管狐を抱えて東と縁側に座る。東は未だ眠そうなこんのすけを受け取ると膝の上に乗せる。
「お偉い方から僕と神成さんがグチグチネチネチ言われたんですよ。勘弁してよ〜、ちゃんと報連相守ってね、わかった?」
「ふぁ、ふぁ〜い……」
未だ眠そうな欠伸をしながら、こんのすけは振り子のようにコクコクと頷く。長門は思わず口元を抑えて込み上げてくる笑いを必死に堪えた。
「長門さんに油揚げで懐柔されたんじゃないかって、僕と神成さんが怒られたんですからね……」
「私は別に何もしていませんよ。こんのすけさんはちゃんとお仕事されていました。たまたま残業になって、泊まり込みになっただけですよ。ね?」
東の膝の上で丸まっているこんのすけを撫でる長門は、何となくクダギツネの扱い方が分かって来た気がしていた。
事実、改築費の件でしつこく言われた際は、油揚げで懐柔したが、それとこれとは話が別である。余計な水を注さないよう、黙っておくことにした。
「では僕は朝一で会議があるので、これで失礼しますね!」
こんのすけに再三、報連相と釘を刺すと、東は踵を返し政府へ戻った。
355人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時:2016年12月18日 22時