検索窓
今日:16 hit、昨日:25 hit、合計:111,107 hit

第伍拾壱戦 ジレンマ ページ4

その名を汚さぬ為、自ら汚れ役を買って出たと、加州は語って聞かせた。ふと長門は矛盾していると思った。前任の所為で人間が嫌いになった。だが未だ主の未練を引き摺っている。
否、人間嫌いだから引き摺っているのではない。彼の中にある未練と憎しみがジレンマとなっているのだろう。そこに隙がある。まだ諦めるのは早い。

「加州さん。長谷部さんと話せば、少しは理解してくれると思いますか?」

「どうだろう……。可能性は無い訳じゃないけど、取り合ってくれるかどうか」

「わかりました。でも僅かに可能性はあるんですね」

「え?……ちょっと!審神者さん!何する気?」

長谷部が心を開いてくれる可能性は、僅かにある。それだけで長門は良かった。即断即決。それからの判断は早い物だった。
まずは加州を光忠の居る大部屋に連れて行き、休むように指示を出すと山姥切と共に長谷部を探しに向かった。

◆◇◆

長門が山姥切を伴って大部屋を後にした頃、長谷部は本丸の本殿から、隣の離れへ向かっていた。
元々前任が強制的な夜伽を目的として増築した物で、長門が来る以前は長谷部の他に、数振りの折れかけの刀剣男士が軟禁されていた。

一日に平均して三回、心配性な燭台切光忠が、朝昼晩の食膳を持って姿を現すことがある。それ以外の来客は皆無。彼から齎される情報は、唯一と言って良い程、日々の鬱憤を紛らわせられる貴重なものだった。
本来なら食膳を持ってくる時間なのに彼は現れず、代わりに憎きあの男からお呼び掛かったと思えば、見習い殺しを強要された。
しかし目の前で男が締め上げられた後、見習いの話を聞けば、過去の世界から連れて来られた人間で、大日本帝国の退役軍人であるという。

勿論見習いは、簡単に殺される訳もなかった。見事に前任を返り討ちにし、長谷部たちの前で社会的制裁を加えたのである。
尚且つ、前任が送り込んできた用心棒もといゴロツキ数名、用心棒を手配した担当の官僚までもを締め上げ、見習いが連れて来ていた若い役人二人を戦慄させる暴れっぷりだった。
当然と言えば、当然の結果であろう。悪因悪果、天網恢恢とはよく言ったものだ。

だが、どれだけ見習いが誠実だったとしても、長谷部には関係なかった。もう二度と人間を信用出来ない。
仲間を傷つけられたくない。自分の本心に、土足で踏み込まれるような事をされたくない。もう放って置いてほしい。そう考えていた矢先―──

「へし切長谷部さんッ!」

第伍拾弐戦 手入れ→←第伍拾戦 名誉



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (134 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
355人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。