【刀剣乱舞】帝國ノ遣イ【男主】〜弐〜

第伍拾陸戦　切り札 ページ9

次第に室内が安堵の空気に包まれた。彼らが自分を必要とするなら、自らもその手を取る。昔と、軍人時代と何ら変わらない。ただ唯一違うのは、手を差し伸べるのが教え子ではなく、付喪神という事。

「助けるのは良いですが、条件があります」

「……何？」

条件と聞くなり、加州や光忠が不穏な表情になる。だが長門はそれを気にすることなく、ハッキリと言い切った。

「私が助けるのは、長谷部さんだけでなく、ここの皆さんです。それを忘れない事。良いですね？」

「……うん。主……ありがとう」

長門が見せた穏やかな笑顔とその言葉に、加州たちは各々顔を見合わせた後、頷き返した。そうと決まれば仕事は山ほど降って湧いてくる。

「さて……長谷部さんとの交渉ですが、鶴丸さんに立ち会って貰います」

「俺か？どうしてだ？」

「貴方なら、有効な“切り札”をお持ちですからね」

長谷部の手入れは済んだが、まだ碌に話を出来ていない。会話をする為には、取引が一番だとのたまう。しかも妙に悪い顔をするので、隣に座っていたこんのすけは身震いした。

「……何か、この人怖い」

「政府でも同じ事を思っている人間は、幾らでもおりますぞ……」

若干引き気味の加州に気付いているのか否か。つくづく考えが読めない審神者を理解するには、まだ時間が要るらしい。
鶴丸を交渉カードに使うとのたまったあたり、策士を匂わせる口ぶりであった。

「審神者殿、長谷部殿をどう説得されるおつもりですか？」

「初めから手の内を明かす様では、戦に勝てません。予め情報を掴んで策を弄する。ですが予想外の出来事も起きうる」

それが戦の基本だと、長門は言い切る。だがその言葉の本質を理解出来たのは、光忠と鶴丸のみ。加州や山姥切は、わからんと首を傾げた。
こんのすけも首を傾げながら、山姥切を顧みるが初期刀は当然首を横に振る。

「おぉおぉ、恐ろしいねぇ、新しい主様は。その歳で戦を心得ちまって」

「私こう見えても昭和の爺ですけど」

「またまた、冗談が上手い」

楽しそうに口角を上げる鶴丸に、長門はそれなりに歳は食っていると言い返す。童顔と身長の低さが相成ってか、それでも冗談と取られてしまった。

「冗談はさておきだ。主殿？どうするんだい？」

「いや……はい。あの離れがずっと気になっていたので、あれを調べます」

鶴丸が真面目に切り替えして来たので、言い返すのも馬鹿らしくなる。思い込みとは恐ろしい、と思いつつ長門は大まかな考えを皆に話した。

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