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恋の雨音が響く―3 ページ21

お互いの実力は、お互い分かりきっているからこそ、一歩も動くことは出来ない。

…悔しいことに、強さは彼と同等。

どちらかが動けば必ず片方も動く。


ビリビリとプレッシャーを肌で感じて思わず身震いする。



「…撃てるんですか?」

「引き金引きゃ良いんだろ?」



くっ、と彼は引き金に指をかけて目を細めて笑う。



「…いえ。そうではなく、先程あなたが“銃はただの武器であり、人殺しの道具には思えない”と言っていたので。」


そう言うと彼は眉を大袈裟につり上げてすぐに、口を三日月に歪めた。

それは、挑発するような瞳だ。


「それはお前に言ったんだよ、“安室でもない、バーボンでもない誰かさん”?」




…驚いた。

これには本当に、驚いた。


この人物は、“俺”の正体を知っているのか…?



「“バーボン”のお前は、必要とあれば残酷になれる。
“安室”は言わなくても分かる良い奴だが…。

オレはその2つは本当のお前ではないと思ってる。」


かまをかける様子でもなく、ただ一人言のようにつぶやく彼の表情は一体何を思っているのかが読み取れない。




「Aに惚れてんだろ?お前」


「は」


思わず自分でも呆れるくらい間抜けな声が漏れる。


今度は彼は優しく笑って、自分の首に突きつけていた銃を離して、ポイと雑にこちらへ放り投げた。



「だってさっきもお前、すぐにトドメささなかっただろ。
…Aが死ぬことが怖い。
お前の中で大切な人認定したみたいだなぁ」


くるりと背中を向けて、今夜ペアを組んでいた彼女の元へと歩み、彼は彼女を背中に背負った。



「“バーボン”にはAは渡したくない。

“安室”は別に良いと思えるが、どうせなら“本当のお前”とやらに任せてみようかな」


にいっと屈託ない笑みは妹を大切に想う兄のようだった。

俺は握っていた彼のナイフを彼に投げ渡す。

ゆっくりと山形を描いて、彼はナイフの刃の部分を器用にか細い指2本で挟んで受け止めた。



「…とりあえず、この女は警察に渡すよ。
見たところ少し腕の立つぺーぺーだろ。
まだ殺人なんてしたことがないんなら、いくらでもやり直せる。

警察署の前に置いておいたら保護されるだろ。
そのあとはコイツのご勝手に、だ。」



…彼の言う通り、彼女はまだ殺人をしたことがない。

俺は頭の中で組織への今回の言い訳を考えることにした。


…何故なら。


「あばよ、恋する青年〜」





あの女性への恋心に気付いてしまったから。

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作者名:paranoia | 作成日時:2018年5月13日 21時

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