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幻想の夢想 ページ23

ー男は心底嬉しそうに笑みを浮かべ、地面を蹴った。


私は少し血に濡れたナイフを見つめた。

こんなことをしても何の意味もないことは分かりきっていた。
それに、もしかしたら死ぬかもしれないということも分かっていた。




ーナイフの切っ先が足を切りつけた。


そんなこと、彼は誰よりも望まなかった。
空っぽだと言った私を温かく受け入れてくれた。


ー次は脇腹がえぐられるように切られた。


…本当に、私には何もなかったんだ。
感情も、心も。どうでも良かった。
ただ、平凡に生きることが望みだったから異常になって嘘を吐き続けた。何者にもなれなかった。
大切な人も失って初めて気がついたような人間。



ー左腕を、裂いたような痛みが襲う。

こんな想いをするなら貴方に出会わなければ良かった。
こんな想いをするなら貴方に恋をしなければ良かった。


不思議なものだ。
恋をすれば女は、変わる生き物という迷信はどうやら本当らしい。
こんなことなら、ちゃんと相談するべきだった。



ー首へとナイフが突き刺さる。


『…本当に、馬鹿だ。私』









首にナイフは突き刺さることなく、ナイフは弧を描くように宙を舞った。
回転して空を飛ぶナイフは、月に反射した。


それでも、男は拳銃を取り出して私に向けた。

私は男の右腕を切りつける。
怯んだところを狙って、右腕にナイフを突き刺した。



雨はすっかり止んでいるのに、地面は濡れていた。



『私が、泣いているのか』




貴方の笑顔が、好きでした。
貴方の真っ直ぐな瞳に、焦がれました。
貴方がいたから、私は私になれた。



私を好きでいてくれて、ありがとう。




とても、幸せでした。


それは、幻想(ゆめ)の様な日々だった。




目の前の男を見下ろす。
男は恐怖ですっかり震え上がっていた。

私は容赦なく、彼へナイフを振り下ろそうとする。









だけど、出来なかった。



目を瞑って、静かに涙を流した。

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paranoia(プロフ) - ありがとうございます!次章もぜひ楽しんでいただけると嬉しいです…! (2018年4月1日 22時) (レス) id: 1c11084766 (このIDを非表示/違反報告)
ロミオ(プロフ) - 4章も終わりおめでとうございます!結婚のやつもぜったい見ますね! (2018年4月1日 10時) (レス) id: ebb52c12f2 (このIDを非表示/違反報告)
paranoia(プロフ) - 最近更新遅くなっていますが、この作品を楽しんでいただけているみたいで正直とても嬉しいです( 〃▽〃)これからも頑張ります! (2018年3月30日 17時) (レス) id: 1c11084766 (このIDを非表示/違反報告)
ロミオ(プロフ) - めっちゃ面白いです!すごい好きです、この作品!更新楽しみにしてます! (2018年3月30日 15時) (レス) id: ebb52c12f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:paranoia | 作成日時:2018年3月26日 23時

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