□【仁兎なずなの葛藤】 ページ7
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「にしてもあのペテン師、目玉抉ってやろうか……」
「まあまあ。ほら、後輩にはいるんだしさ。な？」
「……はぁ。あぁそれと、ありがとう。ここまで着いてきてくれて。色々あって校舎を把握しきれていないんだ」
「！ いいよ、このくらい。おれを頼ってくれて嬉しいっ♪」
＿＿それっぽい会話をしたのがつい数秒前の事。二年Ａ組の教室であんずを抱き締める彼女を静かに見つめていたとき、ふと(そっか、おれAみたいな子が好きなのか)と冷静に、まるで他人事のように思った。
Aみたいな、天真爛漫で(そんな陳腐なものじゃないけど)可愛くて清楚な子がタイプなのかもしれない。
(同性なら抱き締めてくれるのか、ならおれ女の子でいいや)
地雷源だったはずの『女の子扱い』に、むしろそれで心を開いてくれるのなら大歓迎とまできていたんだ。Aの為なら女装も苦じゃない。低身長最高！ だって顔近いし！！
おれの身長をゆうに超える数多の男たちにはじめて優越を感じた。そして言わば、このアイドル科でAと一番仲が良いのは間違いなくおれだ(あんず除く)。
異性という高い壁を難なく超えたおれは今、渾身のドヤ顔をしているだろう。仁兎なずなが雫石Aの隣を歩くための必要な犠牲だ。そんなものに是非は問わない。
「待たせました、仁兎なずな」
＿＿だって、可笑しいのはおれのほうなんだから。
砂糖に蟻が群がるように、蜂が上質な蜜を求めるように。おれが勝手に惹かれて、勝手に焦ってるだけなんだから。
「それはいい、けど……」
けど、けどな。いくらなんでもそれは違うだろ。
「……なんで、あんずが一緒なんだ？」
「早いうちに情報共有しておきたいので。幸い昼食はまだのようだし、ついでだ。……駄目、でしたか？」
(むぅ……その目はずるい、可愛い)
「いや、あんずは『Trickster』とよく一緒にいるからな〜。誘うのも悪いと思ってさ」
「そうなのか。確かに無理矢理な形になったしな、今更だが大丈夫ですか？」
「ﾊﾋｯ。ダ、ダイジョウブ、ﾃﾞｽ……ﾊｲ」
「良かった」
(＿＿どうしよう)
(あんず、邪魔なんだよな)
(けど邪険にしたらAが何を思うかわかんないし)
(……まだいっか)
"菜の花"の兎は内殻を叩く
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作者名：花厳 | 作成日時：2023年5月12日 16時
