□＋α【かの天才の嫌悪】 ページ5
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雫石Aは男が苦手だ、というかギリ嫌いである。
だが特段トラウマを抱えているわけでもなく、それはある種の生理現象のようなものであり、人の善し悪しに関わらず男という存在そのものを毛嫌いしている。
「はわ……。……ﾊｯ、な、なぁ！ 食堂、に＿＿ぃ」
男に話しかけられれば肩はビクッと跳ね。視認すれば粘着質な鳥肌と寒気がへばりついてくる。
たとえそれが、一線を越えれば女の子として認識できそうでできてしまう仁兎なずなであっても例外ではない。また彼はさきほどからAが視界に入る度に、「はわ」となんとも愛らしく素っ頓狂な声を生産している。
「食堂……、君に頼んだのでしたね。わざわざ声をかけてくれてありがとう」
しかしながら、Aにとって好き嫌いと善悪はあくまで別の
いや違う(今のは例が悪かった)、訂正しよう、Aは決して仁兎を嫌ってはいない。ついでに地の底でくたばれなんぞ思ったコトもない。
再三繰りかえすが、これはあくまでも生理現象である。
「仁兎なずな」
「ひゃいっ！？！？」
「私から頼んでおいてなんだが、さきに２年の階に行ってもいいか？ 会いたい子がいるんだ」
「そ、そりぇは、別に構わない、けど……。……その、おりぇ名乗ってなかった気が……」
「アイドル科の資料を見せてもらって、おおよその顔と名前を一致させてあるだけだ。名乗る手間が省ける」
さも当然かのように語られる天才的な言葉の羅列。本人からすれば、男子生徒との関わりを最小限に抑えるための必要な作業だが、はたから見れば徒労に過ぎない。
だが、Aはそれを平然とやってのける。翻せば、コミュニケーションにはさほど重要性を感じていないという事になる。もっと言えば、不必要だとすら思っているだろう。
「……そっ、か」
過剰かもしれない、だが確実に仁兎は戦慄した。天才というのはわりと身近に存在していたはずだ。それでも彼女からは、明確な『異質さ』を感じ取っていた。
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作者名：花厳 | 作成日時：2023年5月12日 16時
