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「……なんでも、ない」
「そうですか」
なんでもないわけがない、が。
「……なんだよ」
「いや、なんでも」
エメラルドの瞳に溜まる涙、逸らされた視線、少し乾燥した唇を噛み必死に堪えようとする様もなかなか絵になる。
その姿を写真に収めたいという不謹慎な本音と、同時に良心の呵責は覚えるだろうというほんの少しの理性。
当然、拮抗はする__が。
(さっさと『個展』に帰りたい)
静かにまとわりつく鳥肌が、警告を出している。さっきからずっとだ。不快感からくる生理現象、明確な嫌悪感。
「私は用事がある。話ならあとでいくらでもしてやるから」
「……絶対、絶対だぞ。約束だからな」
「ええ、必ず」
__紆余曲折を経て、不毛な攻防戦は終わり、しかし月永は不満げに唇を尖らせる。愛おしい彼女の双眸も、紡がれた言葉も、穴埋めにするには少なすぎる。
「王さま、聞いてもいいよね」
背中を突き刺す視線。己の騎士たちに尋問される度、レオは声を弾ませて嘘を吐く。貼り付けたような笑顔で、否定に否定を重ねて、ときどきブラフと事実を織り交ぜて。
__ほら、やっぱり下界にいちゃ駄目なんだよ。
「うがぁぁ!! うるさいうるさぁーーい!!!」
いつもなら干渉してこないくせに、どうでもよかったくせに。あいつが絡むと、誰もがとたんに目の色を変える。
「世界の損失だ!! 冒涜だ!! 愚弄だ!! 今のおまえらといたら名曲が産声も上げずにブラックホールに呑みこまれる!! 巨星でさえ光を失うんだぞ!!」
「あーはいはい、ごめんって王さま」
「ふんっ!!!!」
詰め詰めの質問攻めにとうとう爆発した月永は、大声で喚き散らしながら目にも止まらぬ速さで逃げていった。
「ス〜ちゃんは? あいつのこと知ってる?」
「……いえ。ですが、自分でも驚くほど気になっています」
「ま、そうだよねぇ」
"__噴水のように湧き上がる関心。魔性のような、劇薬のような。噛めば噛むほど、味わえば味わうほど、もっと欲しくなる。肥えても肥えても止められない中毒性"__。
(ナッちゃん曰くそんなやつ、らしいけど)
「Leaderはどこかに行ってしまいましたけど……」
「ナッちゃんとセッちゃんはずっとスペースキャット」
「space cat……」
「ていうかレッスンできないし、帰ってもいいよね?」
「a〜〜〜……そうですね!!(諦め)」
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作者名:花厳 | 作成日時:2023年5月12日 16時