□【月永レオの心酔】 ページ12
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『芸術は神秘』＿＿Aの口癖だ。彼女が芸術の話をするときは、紙の上で筆を滑らせながら、いつもより饒舌に語り、火照った頬と、透き通った瞳には熱がこもる。
＿＿＿＿おれは、ただ知りたかったんだ。
『＿＿私の個展に？ 行ったのか？ 君が？』
『そーそーっ！ 特に、色相環のインスタレーションは傑作だったな！ どのフロアを観てもインスピレーションが止まらなくって、危うく警備員に追い出されそうになったけど！ わははっ☆』
『そうか、ブラックリストのアレは君か。全く……』
個展に行ったのも、家の前で待ち伏せするのも、彼女の影を踏むのも、”知りたいから”だ。
(招待状寄越したのそっちのくせに、行ったら驚くんだもんなぁ)
(可愛い……)
おれは、Aのことならなんだって知ってるって自負してた。しかたないなって笑うのも、傍でずっと、下手くそだけど歌ってくれたのもおれだけが知ってる。おれが一番知ってる。
なのに＿＿
『＿＿君には感謝しています。ですが、もう会えない』
その日から、おれは(おなまえ)に会ってない。
「なんでなんだ、おれ、何かしたのか……？」
「おれ、天才だけどバカだからわかんないんだよ……」
「いやだ、いやだ……。なあ、A……」
「はい」
「＿＿………ぇ、………A、？」
「それ以外の何に見えると言うのですか、っちょっと……」
(本物、本物だ…………)
感触も、匂いも、あのときのままだ。ずっと変わらない。
「……レオ？」
(可愛い……)
(そういえば、痛がってる顔は見たことなかったな……)
「……っ、レオ……抱きしめるのは構わないのですが、少し、加減を……」
「ヤだ☆」
＿＿何も変わらない。おれたちは、ずっとこうしてきた。おれの欲も、Aの欲だって、互いで満たしてきた。Aに愛されて、必要とされて、おれは幸せなんだって肌で感じられる。
「れお、」
(可愛い、可愛い……♡)
実感できる。体感できる。
＿＿また、あのときみたいにふたりで愛し合える。
「……おい、レオ」
「A……痛いよな、苦しいよな……」
「なら早くっ」
「その前にさ、ひとつ聞いてもいいか？」
「……なんだ」
おれ、ほんとはさ、わかってるんだ。
「Aはさ、おれのこと好き？ 愛してる？」
「？ 何を言って……」
鉛丹の王さまは神の夢を見る
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作者名：花厳 | 作成日時：2023年5月12日 16時
