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「あなた今、明らかに私を見て溜息を吐きましたよね!?」



 増えた。このわからず屋(・・・・・)に気を取られて気付けなかったが、ここは彼らの縄張りだったのか。さっさとここを通り過ぎたいのに一向に引き剥がせないッッッ。



「どうしたの、司ちゃ、きゃ__きゃあああああ!?!?」

「? あの、……、鳴上先輩? あの、耳もとで、叫ぶのは、あの、グラグラするので、揺らすのも、やめ…………oh」

「あれっ、おまえらなんでいるんだ!?」

「……こうなるから嫌だったんだ」



 嫌でも出てくる溜息とともに目蓋を抑えた。

 "幸せを逃すぞ"とどっかのお節介に言われそうだが、そんなものはすでに全速力で手の届かない所まで逃げられているし、むしろ良いストレス発散になるとさえ思っている。

 しかし目蓋を開けたくない、現実逃避していたい、アトリエに引き篭っていたい、カラーコード増やしたい…………。



「はぁ」

「ちょっとぉ!! ピーチクパーチクうるさいんだけどぉ!? チョ〜うざぁい!! てかあんたらの声で神聖な、……しんせい、な…………きゃ、きゃあああああ、」

「うるさい」

「ピャッ」



 あまりのストレスに新たに登場した男を睨む。すぐに大人しくなったのは良いが、男は高熱かってほどの赤い顔で餌待ちの鯉のように口をパクパクさせている。



「ねぇ、さっきっからキャーキャー耳障りなんだけど……? ……あんれ、王さまだぁ……ふぁあ。そいつ、だれ?」



 またかと視線を向けると__一瞬、脳漿が痺れた。

 長い欠伸と眠気まなこ、なんて芸術的なのだろう。水底に沈めた絵の具のような深い赤の瞳、あれで描けたら……あぁ、観察眼が活きた。これもまた、ストレス解消法だな。



「彼、いい目をしているな」

「がるるる……」

「なんで俺、威嚇されてんの? てかほんとに誰?」

「­­……私は、」

「い・う・な!! リッツが興味もっちゃうだろ!!!」
 
「すでに興味津々なんだけど。必死になってんの珍し〜♪」

「フンッ! 絶ッッッ対、リッツには教えない!!」

「ケチぃ」

「__レオ」



 このままじゃらちが明かないと、声をかけたが……。



「……なんて顔してるんだ、君は」



 それはまるで、捨てられた子犬のような目だった。

□.→←□□危機、あるいは群像の転機



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作者名:花厳 | 作成日時:2023年5月12日 16時

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