愛し、愛されたいので_１ (ページ1)

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□□危機、あるいは群像の転機ページ1

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　厚い雲が覆う憂鬱な空。今にも降り出しそうな雨の匂い。

「はァァァ……新曲、最っ高ぉぉ♡」

　モコモコ頭のギャル男、もとい瀬名泉は、レッスンそっちのけで画面の中で歌う少女に釘付けになっていた。

　昨日から通算１８回目となる視聴、息を荒らげながらアルバムが出来そうな量のスクショを撮りまくる彼は(語弊はあるが事実なので、)…………まあ、はっきり言って変態である。

　犯罪の歩を着実に進める彼に、まるで死にかけの毛虫を見るかのような視線を送る鳴上と朱桜、レッスンがはじまらないのをいいことにすやすやと寝息を立てる凛月。

　年齢的には先輩である(はずの)三人があまりにも自由すぎるので、"そうでした、これが『Knights』でしたね"と末っ子は諦めの溜息を吐いた。

　そして暇をきわめた二人の矛先は、躊躇うことなく先輩(変態)に向けられる。

「ついにレッスン室(ここ)でもやりはじめたわねェ……。もう、泉ちゃんったら」

「鳴上先輩、あの人はさきほどからいったい何を……？」

「そうねェ。泉ちゃん、最近Aちゃんにお熱らしいのよォ」

「？ Aちゃん、ですか？」

「あらァ、知らない？雫石Aちゃん。芸能界じゃもうすっかり有名人よォ。なんでも、類を見ないくらいに破天荒で、腰が引けちゃうくらい綺麗な子なんですってェ～♡」

　熱を帯びた頬に手を置き、うっとりとした様子で「一度この目で見てみたいわァ」とつぶやく鳴上に対し、瀬名と交互に一瞥しては"類は友を呼ぶんですね"の一言で片付ける。

(……？)

　すると、廊下から大きな声が複数聞こえてきた。それは「頼むから近寄るなっ！！」やら「イ・ヤ・だっ！！！！」やら。男女のわちゃわちゃ(修羅場)のような声。

(……何か、accidentでしょうか？)

　聞き覚えのある声ともう一つ＿＿聞き覚えのない、鈴を転がすような声。引き寄せられるように朱桜は扉を開ける。

　＿＿＿＿そこには、

「おれの前から勝手にいなくなったくせに！！」

「暇なときにでも順繰りに話すって言っただろう！？」

「そんなので"うん、わかった"ってなれるかぁ！！」

　我らがLeaderがコアラのごとく抱きつくなんとも哀れな姿と、それを必死に引き剥がそうとする少女……という、プチカオスな光景があった。

「とにかく今は君に構ってる場合で……は、…………はぁ」

(なっ、溜息！？)

　そして、痴話喧嘩(？)は唐突に終わる。