キエチマエカナシミ (ページ5)

今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:17,454 hit

遠い日の星祭りページ5

「末澤。着いたで。」

その駅で降りたのは末澤と俺の2人だけだった

人気のない駅のホームに立つと、満点の星空がさらに大きく見えて。思わず空を見上げたくなった。

隣でまだ眠そうに目を擦る末澤のトランクを持ってやれば、子供みたいに無邪気に笑うところは変わってない。

なにも。

なにも変わってへん。

初めて会った時の末澤も

今の末澤だって。

変わったのは世界。

この腐った世界。

「いらっしゃいませ。」

古びたモーテルの受付には、にこやかな表情をした青年が1人で立っていた

「2人。一晩で。」

「はい。階段を上がった2階の奥の部屋にどうぞ。」

そうやって笑顔で鍵を差し出された時

微かに香った嗅ぎ覚えのある匂いに自分の中の何かがピクリと反応した。

洗い流しても消えない、血の匂い。

無言で鍵を受け取り、今にも、もう一度眠りにつきそうな末澤を連れ階段を上る

人の気配はない。

俺たちに危害を加えるつもりは無いようやけど。

血の匂いってやつは、人を一度や二度殺したくらいでは体には染みつかへん。

俺らと同年代、それか年下に見えたあの青年が、こんな平和そうな静かな街でどうしたら。

不可解やな。

部屋に入ると、すぐに末澤はベッドで寝息を立て始めた。

部屋は、古びた外見のモーテルにしては、綺麗で。

眠る前にシャワーでも浴びようかと思い、ベッドから立ち上がったその瞬間

コンコン

聞こえた控えめなノックの音。

ドアを開けると、受付にいた青年よりさらに年が若そうな、背の高い青年が、不安げな表情で立っていた。

「何か....？」

「草間リチャード敬太さんと、末澤誠也さんですか....？」

「そうやけど？」

部屋は偽名で予約していたはず。

なぜ本名が知られているのかはわからへん。

相手に気づかれないように、腰のナイフにそっと手をあてる。

「伝言を預かっています。」

「伝言・・・？」

「明日の、昼12時に。この場所に来るようにと。」

おずおずと青年が差し出した一枚の紙には、めちゃくちゃ雑な地図が描かれてた。

それだけ渡すと、青年は頭を下げて、不安げな表情を変えずに去っていった。

青年からは、血の匂いはせんかった。