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「クロロ、人間がうだうだ悩むのは、それも人間の本能なんだと思うよ。」
彼女はカップを混ぜていた手を止め、スプーンを置いた。
ソーサーがカチッと音を立てる。
「音楽ってさ、生きていく上で物理的に必要なものではないでしょ?」
「…そうだな。」
「少し話は逸れるけど、野生動物は音楽を騒音と捉えるらしい。でも人間は、それをメロディーと呼ぶことができる。これって凄いことだと思う。音楽は人間が作り出した芸術作品なんだ。」
彼女の白い腕がカップを口元へと運ぶ。
クロロは、自分のカップを持つ手が力んでいることに気がついた。
「もちろん音楽で腹は膨れない。でもそれでも人間は音楽に心を揺さぶられてしまう。人間だけなんだ。どんなにお腹がすいていても、道端で演奏している笛吹に耳を傾けることが出来るのは。思考もそれと似たようなものだと思う。」
彼女の瞳を縁取る長いまつ毛が揺れる。
「必要ではないけど、必然なんだ。思考するってことは何かを求めるのことだと私は思う。求めるからこそ人間だと思わない?」
クロロはその彼女の言葉を脳内で繰り返した。
ストンっと腑に落ちた気がする。
彼女の意見から言えば、思考するのは『人間らしく生きる為』ではなく『何かを欲してる』から、ということ。
そうか。俺は求めていたのか。
「ねぇ、クロロは何を求めてるの?」
Aにそう聞かれた瞬間にクロロは気づいた。
一体何を求めてたのだろうか。
クロロは自分の欲望の中身を知らない。
確かに欲しているのに。
それが何か分からない。
今まで何故気づかなかったんだろう?
すごく欲しいと思ったものですら、手元に来てしまえばそれほどの価値はないように思えた。
「…さぁ、なんだろうな。」
Aの問いにそう答えながら、ふと幼少期のことを思い出した。
はじめはただ欲しかった。
何を、というのは今でも答えられない。
欲望が欠如というなら、何が欠如しているかも分からない俺は一体なんなんだろうか。
俺は、何を望んでいたんだろう。
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ぽへみあん(プロフ) - ミヤナさん» ありがとうございます!私も久石さん大好きです(≧∇≦*)更新遅くて申し訳ないのですが、これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年9月25日 21時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤナ(プロフ) - とっても素敵な作品ですね!私はクラシックはあまり詳しくないのですが、久石譲さんの曲は好きです!とっても素敵ですよね。応援しています! (2019年9月24日 23時) (レス) id: 7d8442c23e (このIDを非表示/違反報告)
ぽへみあん(プロフ) - 林 香織?さん» ありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです♪。私の大好きな曲ばかりなので聞いていただけて幸いです。ぜひクラシックに興味を持っていただけたらなと笑!更新頑張って参ります…これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年9月17日 14時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
林 香織?(プロフ) - ぽへみあんさん» 初めまして!団長の不器用さと主ちゃんの優しさに虜になりました!出てくるURLを聴きながら小説を読みこんな曲か…と読んでおりました(笑)作者さんのペースで更新頑張ってください! (2019年9月11日 23時) (レス) id: 3baa06326a (このIDを非表示/違反報告)
ぽへみあん(プロフ) - 死体さん» ありがとうございます!そんなそんな…(--;) 私なんてまだまだですが、そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年8月20日 10時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽへみあん | 作成日時:2019年7月21日 0時