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1つはチェロ。
そのチェロは、どんな時もAの傍にあった、
苦しい時も悲しい時も共にしてきた家族のように大事なものだ。
彼は真っ二つに割れていた。
ケースごと火に巻き込まれたのだろう、ところどころ黒く焦げていた。
そしてもう1つは体の自由。
Aの右手はもう動かない。
右手どころか、右足の膝から下も失った。
どれだけ動かそうとしても全く動かない右手は、自分の体から生えてるものでは無いように感じた。
脊髄損傷による麻痺だそうだ。
右足はバスの破片に挟まれ、病院に搬入された時にはもう壊死していたらしい。
その後の手術で切断された。
目覚めてすぐに私はその事実に死にたいと思った。涙すら出ない。
ただただ早く死にたい、殺してほしい、と思った。
妙に頭が冴えていて、医者が遠回しに説明する内容を瞬時に理解した。
もう二度と、チェロは弾けないのだ。
写真を撮ることなどどうでも良くなってスマホから目を離した。
中庭を覆う雪の絨毯はきっとフカフカなのだろうなとAは考える。
誰の足跡も付いていない銀世界に始めて私が到達する。
しっかりと二つの足でそこに降り立つのだ。
想像するだけでワクワクした。
月に初めて降り立った人類、アポロ11号の船長、ニール・アームストロングも同じような心境だったのだろうか。
まぁ、私には歩く足がないのだが。
Aは自嘲気味に笑って、もう何度目かのため息を一つついた。
今日でもう何もかも終わりだ。
Aはベッドサイドの引き出しの一番下を左手で開けた。
そこには5センチ程のカッターの刃があった。
この前上手く理由をつけてカッターを借りた時に半分ほど刃だけ折ってもらっておいたのだ。
眠るように死のう。
この前眠れなかった時に処方された睡眠薬を、これまたベットサイドの2番目の引き出しから天然水のペットボトルと共に取り出した。
睡眠薬を包装から取り出し、口に入れ、水で流し込む。
今からこのカッターで手首を切る。
この日に死ぬことは前々から決めていたことだった。
芸術大学の実技試験日。
本来なら私だって試験会場へと向かう準備をしていたはずだ。
全てが憎いと思う。
スリップを起こしたトラックの運転手も。
乗っていたバスの運転手も。
会いに行かなければこんなことにはならなかった恩師のことも。
「音楽以外にも貴方にはあるわよ」と言った母親にも。
そんなことを考えてしまう自分にも。
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ぽへみあん(プロフ) - ミヤナさん» ありがとうございます!私も久石さん大好きです(≧∇≦*)更新遅くて申し訳ないのですが、これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年9月25日 21時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤナ(プロフ) - とっても素敵な作品ですね!私はクラシックはあまり詳しくないのですが、久石譲さんの曲は好きです!とっても素敵ですよね。応援しています! (2019年9月24日 23時) (レス) id: 7d8442c23e (このIDを非表示/違反報告)
ぽへみあん(プロフ) - 林 香織?さん» ありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです♪。私の大好きな曲ばかりなので聞いていただけて幸いです。ぜひクラシックに興味を持っていただけたらなと笑!更新頑張って参ります…これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年9月17日 14時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
林 香織?(プロフ) - ぽへみあんさん» 初めまして!団長の不器用さと主ちゃんの優しさに虜になりました!出てくるURLを聴きながら小説を読みこんな曲か…と読んでおりました(笑)作者さんのペースで更新頑張ってください! (2019年9月11日 23時) (レス) id: 3baa06326a (このIDを非表示/違反報告)
ぽへみあん(プロフ) - 死体さん» ありがとうございます!そんなそんな…(--;) 私なんてまだまだですが、そう言っていただけるととても嬉しいです!これからもよろしくお願いします(_ _) (2019年8月20日 10時) (レス) id: 6ca0d30634 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽへみあん | 作成日時:2019年7月21日 0時