. ページ42
少しして診察室から出てきた蓮。
「蓮っ、…なんか、言われた？」
蓮「A、…どうすればいいと、俺なんも分からんよ」
「ちょっと待って、蓮、落ち着いて」
蓮「…A…」
完全に憔悴している蓮を見て、何かあったんだなと想像することは容易かった。
「……蓮、話してほしい。全部」
蓮「…記憶が、なくなるって言われた」
「……………うん」
蓮「もしかしたら、全部忘れてしまうかもしれないって言われた」
「そっ、か」
蓮「…Aのことも忘れてしまうんかな。そんなの嫌やけん治せんのかな」
「蓮……」
悲しそうに、俯いた蓮にかける言葉もなかった。記憶を、なくしてしまうなんて。蓮に忘れてしまわれることも、蓮との思い出も蓮の中でなくなってしまうことも怖かった。
「…大丈夫だよ、忘れないようにずっとそばにいるから」
それから蓮は、忘れてしまわないように自分のことや私のこと、瑠姫や奨くんのことをメモするようになった。自分の家が分からなくならないように、帰り道を写真で撮るようにもなった。
ただ、瑠姫や奨くんにはこのことは言えないでいた。
.
瑠「明日から学食休みだって」
「えーそうなの？」
奨「リニューアルするんだって！」
蓮「じゃあ明日はファミレスにでも行く？」
「いいじゃん、それ！」
瑠「ピザ食べたい」
「瑠姫はほんっと好きだよね、ピザ」
蓮の提案でファミレスに行くことになっても、
蓮「じゃあ学食行こっか」
奨「…蓮、今日から学食休みだからファミレス行こって言ってたじゃん」
「あー、蓮も忘れてたんだよね！」
蓮「ああ、うん。そうそう」
瑠「………」
「…瑠姫？」
瑠「ああ、いや。ファミレス行くか」
蓮がそのことを忘れているなんてことは日常茶飯事だった。
.
「…わ、雨降ってきた」
蓮「雨宿りしよ、そこにコインランドリーあるし」
「ほんとだ。知らなかった」
蓮「毎日通るから知ってたんよね」
「わ、強くなってきた。急ご！」
蓮が心配で毎日蓮の家まで送っていたある日、雨が降ってきたことがあった。
蓮「…落ち着くね、ここは」
「そう？」
蓮「うん。なんか分からんけど、落ち着く」
「秘密基地みたいな？」
蓮「あははっ、なんそれぇ」
キュイって言いながら笑う姿が、とても愛おしかったのを覚えている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 276人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
てん(プロフ) - りちゃんさん» 初めまして。コメントありがとうございます。これからの励みになります！ありがとうございます^^ (3月12日 18時) (
レス) id: 63649c6329 (このIDを非表示/違反報告)
りちゃん(プロフ) - はじめまして！祥生のお話が刺さりまくって泣いてしまいました、！切ない系のお話大好きです。これからも楽しみにしています！ (3月11日 1時) (レス) @page26 id: 0340868d0e (このIDを非表示/違反報告)
てん(プロフ) - れなさん» 初めまして。コメントありがとうございます。そうです！！！気づいてくださる方がいるとは思ってなかったので嬉しいです。ありがとうございます！ (3月7日 1時) (レス) id: 63649c6329 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - はじめまして！勘違いだったら申し訳ないのですが、拓実のお話はバレエと少年という曲がモチーフですか？その曲が好きなので嬉しくなりました！次のお話も楽しみにしてます(^^) (3月7日 1時) (レス) @page13 id: 5cdbf435a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：てん | 作成日時：2024年2月25日 19時
