鈍色の空が晴れたなら (ページ5)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:8,958 hit

第四話ページ5

それは、不思議な光景だった。
何もない空間に穴が開いて、穴の中はどこかの建物の内部に続いているのだ。
長義さんが、穴の中へ入り私もそれに続こうとしたその時だった。

「体が……」

なかった。違う、体はあるけれど穴の中に私の体はない。
思わず、体を引いた。一体、何が起きている。
長義さんが確認するように、こちらをみて目を見開く。
ひどい顔をしているんだろうな、と思う。
体を穴から引き抜けば、体は存在している。ああ、よかった。

「すいません、……穴、通ったら体がなくて」
「……」
「ごめんなさい……」
「……気にしなくていい。それより、ひどい顔色だ。少し、休んだ方がいい」

・

・

・

そこから屋敷に戻ると、長義さんが汚れがましな部屋が一部屋だけあるからそこで休めといった。
横になっている私の、近くに長義さんが座り込む。

「休むのも大切だ、特に体が消えるなんてショックもでかいだろう。
君のことは、俺が調べておくから少し休むといい」

そう言いながら、長義さんに頭を撫でられる。
そして、瞼のあたりに手のひらの体温を感じながら、私は眠りに落ちた。

□

「……」

山姥切長義は、ため息を吐いた。
この本丸を、ただ様子を見るだけだったのが、とんでもないことになった。
少女の顔色は、血色が悪く青い顔をしている。
よほど、ショックだったのだろう。
あれには、長義も驚いたものだ。

「体が消える……」

おそらく、ほかの場所でも移動する際はこの現象が起こるだろう。
……彼女は、現状この本丸内でしか存在を許されない。

「(原因は……なんだ？存在が、消えているから……いや、それならばこの本丸では存在できるというのはおかしい。存在が朧気……幽霊や物の怪の類は、本丸と現世など関係なく存在しているだろう……)」

考えれば考えるほど、思考がこんがらがってくる。
いったん、考えるのをやめて立ち上がろうとする。
が、それを許さないものがいた。……件の少女だ。
外套をつかんで、長義をその場にとどめる。

「困ったものだ」

別に、無理に引きはがしてもいいのだが、
持てる者こそ与えなくては、がモットーの彼だ。
けして、そんなことはできない。
苦笑しながら、外套を外すと彼女の体を覆うようにかけた。