第六十三陣 普通の人間 ページ23
「ぼくは、しょようをおもいだしたのでここらへんでおいとましますね」
そう言って、今剣が去ってから数分。
私は、鶯丸さんと何回目かの茶会をしていた。
「主は、ようやく覚悟を決めたのだな」
鶯丸が、茶をすすりながらそう言った。
「覚悟、ですか？」
「ああ、そうだな。……幸せになる覚悟だ」
その言葉に呆けたように彼を見つめてしまう。
そんな私にくすくすと笑いながら彼はつづけた。
「今までの君は、一定の線を引いていた。俺たちに対しても、……幸せに対しても。
君の表情はな、以前の一期一振によく似ていたんだ。幸福であることに、罪悪感を抱いている人間の顔だ」
否定できない、と思った。
思い返してみれば、その時はそんなつもりはなかったけれど、少しそう思ってた。
失くしてきたものばかり、見ていたから。
「……今の私は、あなたにはどう見えますか？」
「さあ。俺には、普通の少女に見えるが？
幸せを享受し、苦しみに喘ぎながらも、懸命に進む人間に」
「あ、りがとう、ございます…………このお茶、おいしいですね」
「そうだろう。いつか大包平に飲ませてやろうと思っている茶だからな」
ゆるやかに時間が流れていく。とおくでかこんと鹿威しの音がした。
もう一度、音を立てないように口に含んだお茶は少し苦くて、けれどとてもやさしい味がした。
□
「きいてましたね、やげん」
「ああ。……まさか、これほどとは思ってなかったが」
手入れ札を使ったのであろう、傷一つない姿をした件の刀剣男士は主と同じように顔を覆っていた。
今剣は外に誰かいることに、それがおそらくは薬研藤四郎であることに気づいていた。
「ぼくもびっくりですよ。あなたへののろけをきくことになるなんて」
ねつれつですね、と皮肉を込めて言った。薬研は顔を覆っていた右手を放した。
「お前には悪いことしたな」
「ほんとうですよ」
カウンセリングもかねて話を聞こうと思ったらこれだ。
ふと話しているときの彼女の表情を思い出す。
「やげん」
「なんだ」
「あるじさまのこと、しあわせにしなきゃゆるしませんからね」
きょと、と呆気にとられたような表情をしていた。
しかし、その顔がすぐに優しげな表情に変わる。
何かを追想するように瞳がきゅうとほそまった。
「……当たり前だ。あの人を幸せにするのは、俺の役目だ。誰にも譲らない」
「にたものどうしですか？のろけはもういっぱいです」
きっと、皆でめでたいと笑いあう日も近いと、今剣はそう思った。
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ANZU* - とても面白かったです。薬研との今後や加州達が来てからの話なども見てみたいです。 (2023年2月13日 21時) (
レス) @page26 id: ff73ec05c8 (このIDを非表示/違反報告)
ぺろ@IN率低下(プロフ) - 霊華さん» コメントありがとうございます……！私情であまり更新できないのですが、完結できるよう頑張らせていただきます……！！ (2018年9月6日 19時) (レス) id: df7989d6de (このIDを非表示/違反報告)
霊華 - とても面白いです！これからも更新頑張ってください！応援してます！ (2018年8月23日 22時) (レス) id: 0beaa7df7a (このIDを非表示/違反報告)
ぺろ@IN率低下(プロフ) - Sazanami_syoutanさん» コメントありがとうございます……励みになります……！更新のほうも遅いですが、頑張ります……！！ (2018年2月15日 20時) (レス) id: df7989d6de (このIDを非表示/違反報告)
Sazanami_syoutan(プロフ) - 面白いです!更新楽しみに待ってますね!! (2018年2月15日 1時) (レス) id: 39d69f205d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺろ@IN率低下 | 作成日時：2017年11月20日 22時
