哀しいくらいきみが好きだから(S.O) (ページ2)

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黒のダウンにGパン、黒いキャップにマスク。

夜に出会ったら確実に不審者に見えるその人が手を差し出してる。

同じように慎重に歩いて行く人が、チラッと私を見てすぐ目を逸らす。

転んだところを見られてたって気付いて急に恥ずかしさが襲って来た。

自分で立ち上がろうとしてみたけど、手首は痛いし足にもちょっと違和感を感じる。

仕方なく濡れた手袋を外して、差し出されたままの手を掴んだ。

「・・・ありがとう・・・ございます。」

立った瞬間右足首に痛みが走って、また転びそうになる。

「っ！」

「・・・ぶつかったのこっちだから・・・。
どっか痛めた？」

顔をしかめたのを見られちゃったみたいで、支えてくれたその人が私の足に視線を移した。

何でもないって言いたかったけど、このままじゃ歩けそうにない。

どうしよう・・・会社に行かなきゃいけないのに・・・

斜め掛けにしたバックには受け取ったばかりの書類が入ってる。

一刻も早く欲しいからってことで直行してるのに、これじゃバイク便を頼んだ方が良かったじゃないの。

一瞬のうちに色々考えて

「・・・あの、すみませんけど・・・大通りまで行きたいんですけど連れていってもらえますか？
タクシー拾いたいんです。」

って言ってその人を初めて真正面から見た。

ぶつかって来た人だったけど、背に腹は代えられない。

「・・・あ」

あれ・・・？

一瞬感じたその人への疑問は

「こんなんじゃ・・・なかなかつかまんないと思う。」

そんな言葉に打ち消された。

あ・・・そうだよね・・・

こういうのを途方に暮れるっていうんだって、発見してると

「でも、おれ、頼んだタクシー来てると思うから・・・同じ方向だったら・・・乗り・・・ます？」

迷ってるような言い方。

そりゃぁそうだわ
初対面の人とタクシーの相乗りなんて、ね

でもこっちは迷ってるわけにはいかなくて

「どこまでですか？」

って聞いてしまっていた。