第14話 ページ14
ザァァアッと湯船に浸かると同時にお湯が溢れる。
貴「ふぁぁぁあ…！」
体に染み渡るような暖かさに思わず声が漏れる
少し腫れていた腕の痛みも和らぐような心地よさ
こんなに大きな風呂を独り占めとは…
たまには外に出てみるもんだな
フッと鼻で笑ったあと、ボーッと壁をみつめた
『Aッ!!』
あの時の焦ったような…咄嗟に出たような夕の声が
自然と未だに耳の奥で残っていた。
アイツはいつも俺の事に突っかかってくる
怪我した時も、喧嘩した時も、
いつも…いつも…
貴「兄貴ぶりやがって…」
怒りが沸々と込み上げてくるのを抑えようとする度に蘇ってくる記憶が増えていく
要らないと思って捨てたはずの記憶
貴「…」
大きな音を立てながら顔を水面に沈めた
『オレのだいじな妹だもん！オレが守るんだ！』
小さな約束、覚えてんのかな
…
貴「ブッッハァ!!死ぬ死ぬ…ッ」
顔を水面から勢いよく出し、呼吸をする。
普通の温泉とかなら汚すぎて出来ないとかそもそもやっちゃいけないんだろうけど…
やってから「あ」と思い、後悔した
濡れた前髪をかきあげ、水面に映る自分の顔を見た
…なんでこんな顔を見てキャーキャー言えんだか…
軽めのため息を吐き捨て、湯船から出た
貴「のぼせそ…」
いや、普通にのぼせていた。
ボーッとしてるって思ってた時点でアウトだったらしく、自動販売機の隣にあったベンチで寝転んで休んでいた。
貴「 く そ が ァ …」
うん、自分の馬鹿加減は把握済みだっての…
頭の悪さは夕ほどではないがまぁ悪い方、風邪引いても気付かないタイプのアホだ。
「何してるんですか」
少し低い声が頭上から降ってきた
ゆっくり目を開けると金色短髪の長身が居た
誰だコイツ全然思い出せねぇ…
貴「あ、はは…ちょっとのぼせちゃって…」
弱気に言葉を放つと「へぇ」と声を漏らした
本当に誰…。
自己紹介して…
「ちょっとそこ退いてもらえます？」
は？コイツ喧嘩売ってんのか
反論しようとする間にずりずりと隙間に座ってきた
ぐぬおおおおなんなんだよお前ええええええええ
すると軽く体を起こされた直後、ポスッと少し柔らかいような硬いようなものに頭をおろされた
…ん？
貴「え、えと…」
戸惑っている俺を上から見下ろしたソイツの顔は
逆光で見えにくかった
…その時の顔、どんな表情だったんだろ
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