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昼休みそうそうどこかへ行った深澤さんは、ものの10分ほどで戻ってきた。
「ね、Aちゃん」
席につかず、呼んだ私の名前。
今日はほかの3人とも食堂に行っていて、今は私と深澤さんだけだ。
「一緒にお弁当、食べない？」
そう言ってカバンから出したのは、今朝、私の手から取っていったアレ。
『…いい、ですけど』
「ここじゃなくて、屋上いこーよ」
『屋上？』
「今日めっちゃ晴れてんじゃん？きもちーよ」
サラッと手を繋がれて、思わずビックリする。
…あれから、深澤さんに触られるのは久しぶりだ。
「あ、ごめん。嫌？」
嫌と言わないのを分かってるくせに、優しいのか意地が悪いのか。
『…や、じゃないです』
「あは、良かった」
じゃあ行こうねえ、と歩き出した背中に着いていく。手は握られたままで、度々すれ違う女性社員からは黄色い悲鳴が聞こえる…ような。
『ちょっと、深澤さん、手』
「いーの、これで」
その横顔はどこか清々しくて少年のようで。気付けばすぐ、屋上への扉を開けていた。
「ね、きもちーでしょ」
『ほんとだ、』
そう言ってベンチに腰掛ける。同じように隣に腰かけると、お弁当に手をつける前に、私に向き合った。
「俺、ちゃんとケリつけたから」
『ケリ……？』
「まずは、ごめん。たくさん傷つけて、弄ぶような真似して、ごめん。」
か細い、掠れた声で頭を下げた。その顔は見れないけど、きっととても泣きそうな顔をしているんだろうってことだけは、わかる。
『頭、あげてください』
「俺、まじでかっこ悪い。自分が傷ついたからって向き合う事から逃げて、色んな子と遊んで、満たされたようなフリして」
『深澤さん…』
「……いつかありがとうって言いたかった人の事、1番傷つけた」
ゆっくり上げた顔。ほらね、やっぱり泣きそうな顔してる。
「結とも、終わらせた。ちゃんと話して、謝った。」
『花村さん、ですか？』
「…あの子の事も、傷つけたから」
彼の伏せ目がちな瞳から、静かに零れた涙。
きっと1番、自分でわかってたんだ。誰かを傷つけている事も、間違っている事も。そして彼も優しすぎて、求められて愛するフリをしてた。
『私ね、深澤さんの第一印象、最悪でした』
「……うん」
その涙をポケットから出したハンカチで拭う。これで二回目だなあ、なんて。
『挨拶から自信満々だし、女の子にキャーキャー言われてるし、満更でもないし。なに？この人って』
その綺麗な涙につられて、私も何故か涙を零した。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月16日 3時
