Toxic Boy . (ページ9)

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人の嗅覚や聴覚とは嫌なもので
なぜだか嫌なものほど記憶に残りやすい。

『は、なして』
「ふらふらしてる子の言う事は聞けませーん」
『…さっきまで花村さんと一緒にいたじゃないですか、』
「ああ、そんな苗字だっけ…んまぁいいよ」
『最低、たらし、変態』
「え〜？やっぱ帰るね〜ってちゃんとお断りしたもん」

「…でも、そんな俺たちのキスシーン、盗み見したのは誰？」

やっとその身体が離れたと思ったら
近くで顔を覗き込まれて、視線が絡んだ。

私の肩に深澤さんの腕が乗せられて
逃げたくても力が入らずに動けない。

悔しい。きっとこの人は馬鹿にして楽しんでいる。
身体の代わりに口は止まることを知らなくて、
目を細めて笑う彼に、嫌味ばかりが溢れた。

『盗み見じゃないです、あんなところでするのが悪い』
「でも暗くても分かったよ、顔真っ赤にしてんの」
『それはっ、酔ってるからで、別にそんなんじゃ、』
「…必死。かあいいねぇ、もしかしてキスも知らないの？」

＿＿＿＿最悪だ。
息を飲んで黙った私に、図星だと言うことを悟ったのか
何故か満足そうな顔。…なによ、さっきからなんなのよ。

「あー、そんな泣きそうな顔しないでよぉ」
『馬鹿にしないでください』
「してないよ、純粋で初心でいいじゃん」
『どうせ経験値0ですよ、私は何も知らないですよーだ』
「ん〜…じゃあ、俺がぜーんぶ教えるよ」

肩に乗せられた腕が退けられて
彼の指が耳をなぞる。
そのまま頬をたどって、私の唇を撫でた。

「ね、おねーさん」
「俺と、タノシイコト、しよっか」

そうやって、わざとらしく誘い文句を言っていたその唇が
私のものと重なるのに、時間はかからなかった。