Toxic Boy . (ページ8)

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『康二くん、飲みすぎだって』
「大丈夫やもん、まだいける、」
「あは、弱いんだねぇ康二って」
「そんなところも可愛い〜向井くん」

案の定、この2人に私達はどんどん飲まされて。
優しい康二くんは断れないから、私の分まで無理をして
先に見事に出来上がってしまった。
もう耳まで真っ赤じゃん。

それをケラケラ笑うこの男。
もう名前すら呼ぶのも嫌気が刺す。うん、この人嫌いだ。

『私、康二くんの事送るのであとはおふたりでどうぞ』
「あれ、帰るの？タクシー突っ込んで帰せばいーのに」
『…私はそこまで、無責任じゃないので。』

お会計置いときます、と多めにテーブルに置いて
あ、ちょっと、と呼び止める声は無視したまま
康二くんの肩を支えて店を後にした。

『康二くん、もうすぐ着くよ』
「ん〜…ありがとなぁ…」
『無理しすぎ、でもありがとう…ごめんね』
「ええねん、こういう時くらい甘えときぃ」

タクシーの中で私の肩に寄りかかりながら
口だけは一丁前にカッコイイこと言うんだもん、
思わず笑ってしまう。
マンションに着く頃にはマシになったのか
こっからは1人で大丈夫、と言ったので
その背中がちゃんとエントランスに入るのを確認してから
1人来た道を歩き出す。

…終電も無いし、家だってそこまで遠くもないから
酔い覚ましに、少し歩こうかな。

気を張ってたのが1人になって解けたのか、
ふわふわしだした頭と身体を動かした。

20分ほど歩いて、先程の居酒屋付近に戻ってきた道中。
人通りも減ったam 0:53 。

その脇の暗い路地で、抱き合う男女の影が見えた。

「…、」
『…あ。』

そこでバッチリ目が合った人。
ああ、今日はこの人ばかりで大層気分が悪い。

…気分が悪いのは、
お酒が回っているせいもあるかもしれないけど。

深く重なる唇を離して、自分の視線の先にいる私の存在を
相手に気付かれる訳にもいかないのだろう。
声を出さずにこちらを見つめる視線から
何も言わず逃げるように目を逸らして
おぼつかない足取りで歩き出した。

こんなことなら、そのままタクシーに乗って帰ればよかった。
こうなるかもしれなかったんだし、折り返すんなら
せめて1本隣の裏道を歩けばよかった。
……今日はとことん、いい事がない日だ。

それから、5分ほど歩いた頃だと思う。

待って、と聞こえた声と同時に掴まれた右手。
力の入らない私は、反動でぐらついて
あの嫌という程甘ったるい、バニラの匂いに包まれた。