Toxic Boy . (ページ6)

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『そしたら、ここに入力してこの作業は終了です』
「なるほどぉ」
『最後に、ファイルにコピーした物をファイリングしてください』
「ん、おっけ〜」

あれから数時間、マンツーマンで業務を教える。
一見やる気が無さそうな深澤さんは
思いの他仕事覚えが早く、効率がいい。
順調に今日分の引き継ぎは終えそうで
…安心、残業の申請はせずに済みそう。

時折チラチラと康二くんが心配そうに見てくるのが
まるで飼い主を心配する子犬のようで。
今だって、あまりにもこちらを見すぎて
自分の仕事が進んでないものだから
岩本さんに怒られてしょんぼりしている康二くん。

『ふふっ』
「笑ってるのはじめてみた」
『あ…すみません』
「え〜、そこは俺にも笑った顔見せてよぉ」

俺、女の子の笑った顔好きなんだ。と言うので
その手には乗るものかと顔をそらすと
怒っちゃった？と深澤さんが笑った。

『業務に集中してください、仕事中です』
「でも、今日教わった事はぜーんぶ終わったもん」

…そんな可愛こぶった顔で見られても
私には効きませんよーだ。

「Aちゃんってさぁ、俺の事嫌い？」
『嫌いとか好きとか思うほど、仲良くないです』
「や〜、いいねその感じ」

他にはいないわ、とやけに満足そうなのは何故なのか。

pm.17:00。

この会社はなんとも良心的なので
基本残業は認められていないし、定時帰宅が基本。

『退社時間になったので明日はこっちの作業をやりましょう』
「ざんねぇん、もう少し話したいのに」
『明日からも話しますよ、仕事の事は』
「わ、やっぱ手厳しい〜」

そんなこと言いながら
さっさと片付け始めてるのはどっちなのよ。

途中、少しだけ休みましょうか？と言った時
立ち上がってスマホ画面に向けていた視線。
私も鈍感な女ではないので
なんとなく、どんなやり取りをしているのかは察した。

「じゃ、おつかれぇ」
「ふっかさん新人のくせに！一番乗りかい！」
「Aちゃんから退社のお許しは得てるも〜ん」

じゃね〜と振り返らずヒラヒラ振る手。
綺麗な細い指、白い肌。

なんか、あの人の存在だけで酔いそうだな。

きっと今日会うであろう誰かも、
この人の甘い空気や言葉に酔わされてるんだろう。

「なんやねん！遊び人！！A、駅まで一緒に帰ろや」
『うん』

康二の一声で我に帰って、私も帰る支度を始める。

…そばに居たからか、彼の香水の匂いを
ほんのり自分のジャケットから感じたことには
気付かないふりをした。