Toxic Boy . (ページ42)

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(T side)

今にも泣き出しそうな顔。給湯室でもそうだった。
下唇を噛んで、涙が零れるのを我慢している。

「あーあ、また嘘ついた」
『嘘なんかじゃ、ほんとにっ！』
「それさぁ、康二の顔みて言えんの？」

ビクッと跳ねた肩。堪えてた涙が、ポロポロと落ち出す。
この子の事だから、きっと悪気なく、勢いで言っただけ。
涙が止まらないのは…きっと想像したんだろう、康二が悲しむ所を。

『……言えません、そんな酷いこと』
『私なんか、今日おかしいんです』
『深澤さんの事考えてばっかで、から回って、苦しいんです』

いつもの落ち着いた彼女とは違う、子どものように泣きじゃくる姿。

「…あの時は、あんがとね」
「俺ちょー具合悪かったの」
「色々あって、気持ちも身体もしんどくてさ。だから助かった」
「あと…落ち着いたのよ。あの、石鹸の匂い」

ぼやけてた記憶が、鮮明になったのはさっきの事。
ハンカチの匂い、初めてAちゃんとすれ違った日。
同じだ。少し甘い、優しい石鹸の香り。

『…深澤さん』
「辰哉って呼んでくんないの？」
『だって、』
「だって…何？」

おでこをくっつけて、目を見つめる。
なぜだか、この子の潤んだ瞳には弱い。

『……あの人も、辰哉くんって呼んでた』
「…かーーわいいね、ほんと」

嫉妬や妬みは嫌いだ。縛られているようで息苦しい。
だけどこの感覚はなんだろう。
自分の事でいっぱいいっぱいで、今にも息が止まりそうで
それでも必死に抵抗している彼女を。

＿＿＿＿どこかで、愛しいと感じている。

その時鳴り出した携帯。
ごめんね、と開くと【アニヲタ】の文字。俺が勝手に変えたんだけど。

「…なーによ」
''早く戻ってきてよーーこぉじのだる絡みすごいんだってぇ！''
「うるっさ、佐久間も酔ってんじゃん」
''とにかく！Aちゃんも連れて帰ってきて！早くぅ！''

言いたいことだけ切って切られた。無機質な音が流れる。

「…戻ろっかぁ」
「ハンカチ、ちゃんと返すね」

俺はずるい。

''深澤さんの事考えてばっかで、から回って、苦しいんです''

彼女の言葉に、何も応えなかった。
他の子とは確かに違う。でもどうしても応えられない。

''……どういう事？''
''辰哉、ごめんね''
''ごめんって…は？意味わかんねえ''

あの日の会話がよぎった。
誰かを愛して、求めて＿＿＿裏切られたくない。

歩き出すとゆっくり付いてきた彼女。
俺だって結局、から回ってばっかだ。

「…ダッセェ」

1人小さく、呟いた。