Toxic Boy . (ページ5)

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(T side)

''辰哉くん移動になったんだね。ところで、今夜はどう？''

「空いてるよ〜…っと」

人間、欲深い方が得すると思う。

社内で関係を持っているコは少なくはない。
もちろんお互いそういう関係って割り切っているし
仕事には害はないんだから、お互い満足するならヨシじゃん？

慣れた手つきで返事をすると
''じゃあ終わった後、いつものとこでね♡''と
ご丁寧にハートマークの付いたお返事。

女の子の扱いは上手い方だ。
ウンウン話を聞いて、この手で頭を撫でて
求められたらベッドの上でも満足いくまで付き合ってあげる。
大抵みんな、目を合わせて笑い返せば
恥ずかしそうに顔を赤らめて。

ほーんと…簡単で分かりやすくて、愚かだなと思う。

スマホをポケットにしまった後
新しい「先輩」に呼ばれて、その横に腰掛けた。

・

・

・

「ふっかさぁ、いつまでそんなことしてんの？」
「え〜？皆が俺の事求めんだもん」

＿＿＿＿毎年恒例のバレンタインの日の事。
食べきれないチョコを抱えて
仲の良い照の所に押しかけ、デスクに腰掛けた。
机に座んなよ、と嫌な顔をされたけど
本気で怒る気も無さそうなので、そのまま答える。

昼休みだから人もまばらで
数人がデスクでそれぞれ好きなように過ごしているのを
照の仕事部屋から見渡す。
ガラス張りなので、外からもこちらの様子が見えるせいか
チラチラと残った人たちの視線を感じた。
そりゃあ他部署の有名なチャラ男が
真面目で信頼されてる岩本さんの部屋にいたら見たくもなるよねえ。

「職場で手出しすぎんなよ。あと変に期待させんな」
「期待？」
「誰にでも優しくすんなよって事」

デスクに押し付けたチョコレートの山を見ながら
大きなため息をつく照。
これだけならさっさと帰れよ、と言われてしまったので
はぁい、と返事をして部屋を出た。

＿＿＿優しくすんなよ、ねえ。

言われたことを思い返しながら、部署を出る途中。
誰かとすれ違いざまに
フワッと着飾らない石鹸の香りがした。

思わず振り返ると、俺が見た事ない女の子。
少し背が低くて、肩くらいまで伸びた綺麗な髪が揺れている。
……あんな子、いたっけ？

大抵の子は、俺の事見ると
深澤さんだ！ってキラキラした目で見てくるか
こちらを見ながら頬を赤らめたり、
ご飯のお誘いしてくるか…なんだけど。

「…へー、照の後輩かな。覚えとこぉ」

俺の事なんか気にもとめず背筋を伸ばして歩くその子に
珍しく、興味を持った。