Toxic Boy . (ページ39)

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「かんっぱーーい！」

元気な佐久間さんの一声で
カツン、とぶつかるグラスの音。

終業直前。華金だし飲みたい！！と言い始めた佐久間さんに
みんなで乗っかって入った個室の居酒屋。
ここは俺と佐久間が持つから、と言った岩本さんに
照兄…と胸をときめかせている康二くん。

目の前には佐久間さん。その隣に岩本さん。
隣は康二くん。その横に深澤さん。
そう、深澤さんとは視線も合わない位置。

あれから今日は、一言も話していない。

「Aちゃん、お魚好きー？」
『へっ？…はい、好きです』
「んふふ、じゃあこれおたべ〜」

私の空いたお皿に刺身を取り分ける佐久間さん。
すみませんと頭を下げると、先輩だからね！と得意げに言う。
昔から変わらず、可愛らしい人だと思う。

「俺のお守りなのよこれ、俺の嫁ってほんっと可愛い！」
『お守り…』
「今ちょっと引いたでしょ」
『いや、全然、素敵だと思います』

コロコロ話と表情が変わる佐久間さん。
こうして向き合って話すことは中々無いので色々な話をする。
今は、佐久間さんの''嫁''の話。
お守りだって言ってるのは、
カバンにいつも付けてる嫁のキーホルダーの事。

「こういうの持ってるだけで、なんか頑張れちゃうよねえ」
『…それは、わかるかもしれないです』
「Aちゃんもあんの？お守り的なの！」
『…お気に入りのハンカチ、だったんですけど』

そこまで言って、口篭る。
どした？と眉を下げる佐久間さんに、無くしたんですと告げた。
あの時誰かに貸したとは、何故か言わなかった。
そっかあ、見つかるといいねえ、と
自分の事のように落ち込んでしまったので
きっと見つかります！と食い気味で言うと、ふわりと笑った。

「Aちゃんは優しい子だよねえ」
『優しい？』
「入った時からさ、いつも周りの事見てるし」

ねー照！と声を張った佐久間さんに
ここの奴らは皆優しいから、と返す男らしさ。
それから他愛もない話をしていると
思い出したように岩本さんが話し始めた。

「そういえば、ふっかが1回倒れた事あったよね」
「んあー、そうね」
「倒れた？ふかさわがぁ？」
「佐久間のたまに出る俺へのその呼び方、なんなのよ」
「まだ、ふっかが入社してすぐの頃？」
「俺はまだ関西の時やから、それ知らんわぁ」

＿＿あの時ハンカチ貸してくれた子、見つかったの？

その言葉に、思わず手が止まる。

数年前、体調不良、誰かに借りたハンカチ。
そして今朝見た、懐かしい夢を思い出した。