Toxic Boy . (ページ37)

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「あの！」
『…へ？』

給湯室。フローラルな香り、小柄で可愛らしい顔立ち。
長めの髪は丁寧に巻かれている。

花村さん。可憐な名前通りの見た目だと思う。

午後の勤務中の事。
コーヒー入れてきます、と言って立ち上がると
みんなが一斉に俺の分も！とねだったので
渋々承諾して、お湯が沸くのを1人待っていた。

そんな時に入ってきたのが彼女。
居酒屋の件がきっかけで正直いいイメージは無い。
男性に媚びるのは悪いことではない。武器があるなら使えばいい。
…でも、目の前に私もいたのに
挨拶もなしで康二くんに突っかかっていた事については話が別だ。

お疲れ様です。それだけ告げて、ケトルに視線を戻した。
流し場でお弁当箱を洗いたかったらしい。
わざわざ私達、というか
彼のいる部署のフロアに来るあたりがわざとらしいが。
その様子をコーヒーを注ぎながら横目で見ると
さっき見たお弁当箱と色違いの物。

(…やっぱりね)

彼の体を心配して作ったのもあるだろうが
1番は私に見せつけるためだろう。
あの部署で女性は私だけだ。気に食わないのも無理はない。

洗い終わっても尚、
何故か帰ろうとしない彼女に疑問を思ったのも束の間。
声をかけられて、今に至る。

「辰哉くん、じゃなくて…深澤さんと、どういう関係ですか？」
『…はい？』
「彼、あなたの話をよくするんです。最近」

女という生き物はめんどくさい。
無駄に勘が働くし
言われなくとも相手の言わんとすることを察してしまう。

「好きとか、言いませんよね？辰哉くんのこと」

可愛いお顔が台無しだなあと、どこか他人事に思う。
この子はきっと彼が好きで、でも関係が壊れるのが嫌で
体だけの繋がりを求めているんだろう。

「あれ、珍しい組み合わせだねえ」

答えずに黙ってると、顔を出した渦中の男。
これはまた、最高にタイミングが悪い。
5人分は運ぶの大変かと思って手伝いに来たんだけど、と
ポケットに手を突っ込みながら入ってきた。

「辰哉くんっ、」
「違うでしょ、会社ではなんて言うの？」
「…深澤さん」
「いーこだね」

その手が彼女の頭を撫でる。
昨日から人の目の前で、いい加減にして欲しい。

『…花村さん、さっきの質問にお答えしときますね』
「え？」
「深澤さんは''ふつーに職場の人ってだけ''です』

昨日言われたばかりの言葉をそのままお返しした。
失礼します。2人に告げて後にする。
トレーに乗った5つのカップ。
水面に反射した情けない自分の顔は、見えないふりをした。