Toxic Boy . (ページ35)

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夢を見た。

顔はぼんやりしてもう覚えていない。

人があまり来ない資料室のフロア。

壁伝いに歩く人が見えて

崩れ落ちたその人に、咄嗟に駆け寄った。

俯いたままのその人は、気分が悪そうで

だから、その日持っていたお気に入りのハンカチを渡した。

大事なプレゼンの日だった。お守り代わりに、持っていた物。

……そうか、その時に、渡したままだったんだっけ。

花柄の、白いハンカチ。

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目が覚めた。あれは、随分の前の会社での出来事だったな。
思い出したところでハンカチが帰ってくる訳でもないが
あの後大丈夫だったのかな。と
今更な心配が頭をよぎる。

食欲はなく、コーヒーだけで朝は済ませた。
いつも通りスーツを着て、荷物を持つ。
靴を履く前に玄関で身だしなみを整えて
ふと、横目に入った男物のマフラー。

初めて深澤さんの家にいって、
未遂だということがわかって、安心して
一緒にラーメンを食べたあの日。
…契約を、結んだ日。

返そうと思いつつも、タイミングがなく
洗って綺麗に畳んだまま置かれている。
部屋に戻って、綺麗なブランドのショッパーを取り出した。

『…うん、返そう』

これを持ってたとしても、いいことなんか無い。

昨日、私たちがあの場面を見ていたことは知らない筈だ。
勝手に気まずくして、距離を置けば
それこそ康二くんと私みたいに
変な感じになってしまうのは目に見えている。

(大丈夫、いつも通り)

似合わない笑顔を貼り付けてもう一度玄関の鏡と向き合った。
いつもより少しヒールの高いパンプスを履くと
自然と背筋が伸びる。

『いってきまーす』

誰もいない部屋に一声かけると
まだ冷え込む朝の空気に震えながら、会社へと向かった。