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『康二くん、』
『待って、康二くんってば』
人通りが少ない路地へ入る。
未だに歩く事を止めない康二くんに声をかけても
振り向くことなく進み続けるから
グッと力を込めて、その動きを止めた。
『…康二くん』
「俺、マジでかっこ悪いやんな」
空いた手で自身の頭をぐしゃぐしゃと掻いた後
勢いよくこちらを向いた。
「ほんっまに、ごめん、ごめんなA」
深澤さんに向けていた怖い顔じゃない。
眉を下げて、涙目で、必死に頭を下げた康二くん。
『そんな、顔上げてよ、やめてよ』
「俺、見てしまってん、あの日」
『あの日…？』
「…１ヶ月前の土曜日、ふっかさんとカフェに入ってたとこ」
…確か、初めてデートした日だ。
映画を見て、大泣きしてる私の事をケラケラ笑いながら
意地悪な顔とは裏腹に、優しく涙を拭ってくれた日。
『…みて、たんだ』
「2人が付き合うとるんかなって思って、戸惑ってしもうて」
黙っててごめん、話せんくてごめん。
ごめんを繰り返す声は
だんだんか細く、震えていく。
康二くんは、やっぱり泣き虫だ。
『康二くん、顔上げてよ』
「…っ」
『……ちゃんと、話すべきだったね、すぐ』
何か覚悟を決めたように、私の方に顔を向けた康二くん。
ぐしゃぐしゃに泣くものだから
綺麗な顔が台無しだ。
『あのね、深澤さんとは付き合ってないよ』
「…へ、でもだって、手繋いだり抱き合ったり、してたやん」
『あれはただの練習なの』
「れん、しゅう？」
『…うん、経験値がない私の、練習相手してくれてるの』
自分で言いながら、何故か心がズキズキと痛んだ。
毎週土曜日に会うのも、優しく名前を呼ぶのも
泣いてる時に抱きしめて慰めてくれるのも
全部全部、嘘なんだから。
『最初は話そうと思ったけど言い出せなくて』
『私こそごめんね。…仲直り、してくれる？』
ぱあ、とわかりやすく明るくなった康二くんの顔。
当たり前や、そんなん当たり前やん！！！と
勢いで私の事をギュッと抱きしめた。
『康二くん、苦しい』
「絶交されるかと思ったんやもん〜〜〜〜〜…ッ」
『…もう、仕方ないなあ』
柑橘系の匂いが鼻を掠めた。
『仲直りに飲みにでも行こ』
「ええの？」
『ずっと行けてないんだもん、行こうよ』
泣いてるより笑ってる康二くんが好きだ。
じゃあいつものとこやな！と打って変わって張り切った様子。
＿＿＿＿深澤さん、今頃帰った頃かな。
明日どんな顔しよう。
気づけば頭の中は、深澤さんの事でいっぱいだった。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年2月26日 2時
