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「落ち着いた？」
『…ご迷惑おかけしました』
「いえいえ」
仮にも彼氏なんでね〜、と頭をポンポン撫でる。
あれからどれくらい、そうしていただろうか。
バレないように2人で部屋からでると
オレンジ色だった空はもう紫色に染まっていた。
「今日は早く帰って、ゆっくり寝なね」
『はい、ほんとにごめんなさい…スーツも汚しちゃったかも』
「そんなこと気にしないの、ね？」
他愛も無い話をしながら、人の居なくなったロビーを通る。
その時、私たちを後ろから呼び止めた声。
「待ってや！」
ハスキーな、聞きなれた声。
振り向くと、真剣な顔をした康二くんが立っていた。
話してから、1時間以上は経過していたはずだ。
『…なん、で』
「…追いかけた後、2人でエレベーター乗ってたとこ見てん」
『っ！』
「なあ、ふっかさん」
＿＿＿＿Aの事、どう思ってんの？
聞いた事のない、低く冷たい声が響いた。
ドクン、と胸が鳴る。
この人は、その問いになんて答えるのか。
…あれ？私、なんでそんなこと心配してるんだろう。
「…俺ぇ？Aちゃんの事？」
「ヘラヘラすんの辞めや、真剣やねん」
「あは、怖いなぁもう」
「そりゃあ、ふつーに職場の子ってだけじゃん」
可愛い子が泣いてたら、康二だって慰めるでしょ？と
私の肩を抱いて寄せた。
……そうだよ？職場の子で、歳下で。
こうやって慰めてくれるのも「仮」に彼氏なだけであって。
「じゃあ…Aの事、抱きしめたりせんといて」
「へぇ、見られてたの」
「俺が見てたの気付いてたくせによく言うわ、ほんま」
A、やっぱ俺と帰ろ。
私の手を取り、深澤さんを置いて外に出た。
2人のやり取りを見ながら、何も…言えなかった。
振り向くことは無かった。
康二くんに繋がれたままの右手をぼんやりと見つめた。
今までは気付かなかったけど、
康二くん、歩くのこんなに早いんだ。
10cm以上私よりも高い身長、長い足。
…当たり前だ。そっか、いつも康二くんは。
(私の歩幅に、合わせてくれてたんだ)
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年2月26日 2時
