Toxic Boy . (ページ29)

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なぜ泣いているのか。

彼の問いに答える前に
腕の中に閉じ込められていた。

「…ないていいよ、お兄さんしか見てないし」
『…っう、』
「だいじょーぶ、俺はどこにも行かないよ」

苦しくて悲しくて
彼のスーツをクシャッと掴むと
私の背中を優しくトントン叩いてくれた。

1Fについて、こっちおいでと
連れていかれた人のこない喫煙所。

廊下の奥に作られたその部屋は
今はもう使われておらず、立ち入らないように
ロープが置かれている。

お構い無しにその部屋の扉を開けると
中に入って、再び抱きしめられた。

「こーじと喧嘩したんでしょ」
『……なんで』
「そそくさと出てったところ、追いかけてたじゃん」

しかもその後、廊下での会話もちょっと聞こえたし。と
サラッと盗み聞きしてたことを暴露してきた。

『…何も、答えてくれなかったんです』
『友達だから、嫌なことしたなら謝りたかっただけなんです』
『なのに、聞いても何も言わなくて、』

あの時の康二くんの顔を思い出すだけで胸が痛くなる。
抱きしめていた身体を少し離して、私の涙を拭った。
目元を拭う指は暖かくて、優しくて
それが辛くて、また涙が零れた。

「あーあー、泣きすぎだって」
『うう〜〜〜〜〜ッ……』
「この間の映画とは違って、子供みたいに泣くんだね今日は」

そんな私を見ながら、呆れたように笑って
私の瞼にちゅ、とキスを落とす。

「…こうしたら、止まる？」

ちゅ、ちゅ。と何度も降ってくる唇。

＿＿＿深澤さん。止まんないよ。

声にならなくても伝わったのか
私の頬を撫でながら、落とし続けるキス。

『ん、深澤さん、』
「だーめ、泣き止むまで止めないよ」
『辞める、泣くの終わりますから、』
「まだ泣いてるじゃん。嘘ついちゃだめでしょ？」

段々と恥ずかしくなって
ゴシゴシと目を拭こうとしたのに止められた。
そんな拭き方、傷つけるからだめでしょ。と
いつもより少し低くて、掠れた、甘い声。

……ずるい、こうやって弱ってる時にいつも傍に来る。

『…なんで、私に構うんですか』
「んー。なんでだろーね」
『なんなの、意味わかんない、康二くんも深澤さんも』

その胸板を叩いたって私の力じゃビクともしない。
その腕を掴まれてまた抱き寄せられて
深澤さんの匂いに包まれる。

「Aちゃん、鈍感だからねえ」
『どういうこと、ですか』
「康二も大変なんだって事よ」

わかったような口が鼻につくけど
この温もりが、今は心地がよく、落ち着いた。