Toxic Boy . (ページ27)

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『ねえ康二くん』
「ごめん急いでんねん」
『嘘』

退勤後、バタバタと廊下に出た彼を引き留めた。

『…私と、目も合わせなくなったじゃん』
「そんなこと」
『じゃあなんで今も、こっち見てくれないの』

それは…と、口篭りながら弱々しくなる康二くんの声。
ここじゃ目に付くからと
一緒に屋上に行く為にエレベーターへ乗り込んだ。

『…わ、思ったより冷えるね』

重たいドアを開くと冷たい風が頬を撫でる。
私の声に反応はせず、とぼとぼと着いてくる康二くん。

『私、何か嫌なことしたかな』
「ちゃうねん、Aは悪くないねん」
『じゃあ、何があったの？』
「…別に、なんもないって」

嘘をつくのが下手な人だ。
落ち着きのない視線、ギュッと握ったままの拳。
扉の近くから動こうとしない康二くんに1歩近づくと、
同じように1歩、後ずさりした。

『…あは、近づかれるのも嫌か』
「…っ！ちがっ」
『ごめんね、嫌なら席替えも検討してもらうから』

もう聞かなくても良かった。その行動が答えなんだから。
直ぐに諦めるのは、きっと私の悪い癖だ。

なんで？どうして？何かした？
聞きたかったはずの言葉は、声にならない。

喉の奥が、締められるように痛むのがわかった。
目の奥がじんわりと熱くなって、呼吸が浅くなる。

『…急いでるのにありがとう、また明日ね』

何か言いかけた康二くんに気付かないふりをして
振り絞った言葉を告げた後、屋上から立ち去った。

''な、一緒帰ろや！''
''今日はな！俺もお弁当やねんで''
''Aは知らんやろ、俺の作るチャーハンめちゃ美味いんよ''

1人で乗り込むエレベーター。
いつもしょーもない話、してくれてたのにな。
チャーハン自慢するなら、作って食べさせて欲しかったな。

ただの職場の仲間以上に、
彼は私にとって大事な友達だ。
傷付けたなら、謝りたい。理由が知りたい。それだけだった。

『なんであんな顔するの……』

初めて見る傷付いたような顔。
どうしていいか分からない、でも否定できない様な
そんな顔だった。

友達なんだから、全部話して欲しかった。
ポロポロと溢れ出す涙は止まらないまま。

ガタン、とエレベーターの扉が開いて
聞き馴染みのある声が聞こえる。

「あれ、Aちゃんだぁ〜」

「……ねえ。なんで泣いてんの」

スマホを片手に操作しながら
いつもの調子で入り込んできたその人は
私の顔を見た後、真剣な声で問いかけた。

＿＿＿こういう時に限って、何故この人なんだろう。