Toxic Boy . (ページ26)

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あのデートから数週間。

あれから、土曜日にはどこかへ出かけるのが日常となった。
最初は映画、次は水族館、その後は遊園地。
まるで学生かのようにはしゃいで、ご飯を食べて
必ず20時には解散する。

デートも手を繋ぐだけ。
それ以上、何かを求められることは無かった。
もちろん契約上''そういうこと''はしない決まりだが
……2回もキスしておいて、逆になんもせんのかい。

ただ一つ、変わったことといえば。

『ねえ康二くん、ここの資料なんだけど』
「へっ！？あ、それは…えーっと、さっくんに聞いてや」
『え？』
「さっくん、Aがわからんとこあるって」
「へ、俺ぇ？てか俺、一応先輩なんですけど！！」

佐久間さんをさっくんなんて呼べる後輩は
きっとこの男、向井康二だけだ。
…今はそんなこと思ってる場合じゃないか。

「んで、どこー？」
『…あっ、えっと』

最初に映画館に行った週明けの、月曜日。
あれから、康二くんはそっけなくなった。
もちろん会話しない訳では無い。
朝もおはよーさん、といつも通り声を掛けてくれるし。
…でもあからさまに話す回数も減ったし
一緒に駅まで帰ることも、飲みに行くことも無くなった。

仕事の事で話しかけても、この通り
大抵佐久間さんか、岩本さんに聞けと言って逃げられる。

(……嫌われるようなこと、したのかな、私)

心当たりはない。だが、
私が知らぬ間に、無自覚で彼を傷つけたのかもしれない。

「こーじ、やっぱ変だよねえ」
『ふっ…かざわさん、びっくりした』
「あは、ごめんごめん。でもどう見ても、おかしいもん」

今も見て、間違ってるよアイツ、と
深澤さんが指さした先にいた康二くんは
コピー用紙を逆向きに入れたようで。
エラー音に驚く後ろ姿が見えた。

『どうしたのかな…』
「ね、変なこーじ」

何してんだよ、と岩本さんに叩かれる康二くんを
自分の席からそっとみつめた。

こんなに、康二くんって遠かったっけ。

そんな事を思いながら、
デスクに置いておいたコーヒーを飲む。

康二くんがいつも買う物を真似して買ってみたが
今日はなんだか、美味しいと思えなかった。