Toxic Boy . (ページ20)

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『すごい美味しかった…』
「でしょ、あそこ俺のお気に入り」

よく一人で行くんだぁ、と吐き出した息は白くて
今夜の寒さを物語っている。

マンションから徒歩10分かからないくらいにあった、
決して綺麗とは言えないラーメン店。

女の子連れてるのなんか初めてだねえ、と
人あたりの良さそうな大将に話しかけられて
そうでしょ〜、と得意げに返していた。

…女の子、連れてきたこと無いんだ。

思えば、彼の部屋にも女物らしきものは無かった。
普通はメイク落としやら、歯ブラシやら、
あの人の事だ、置かれていてもおかしくは無い。

でも、手を洗うために借りた洗面台には
そんなもの一つも無かったし
私が来るという理由だけでは捨てるのも理解し難い。

『…えっと、なんで』
「ん？」
『辰哉くんの家、真反対ですよね』

疲れてるでしょ？帰ろっか。と先に言ったのは彼。

pm 20:48 。

ラーメンをすすりながら
この後、また家に連れていかれたらどうしようと
そこそこ真剣に考えていたので
そんな不安はその言葉で吹き飛んだ訳だが。

私が駅に向かって歩き出した方向と、
彼の家は真反対のはずなのに
何故か私の隣から離れることなくついてくる。

「たくさん困らせちゃったし。駅までちゃーんと送るよ」

そう言う彼の頬と鼻先が、ほんのり赤くなっている。
…やっぱり寒いくせに、私にマフラーまで貸しちゃって。

きっと貸しを作ろうとか、利用しようとか
そんなことも考えず、善意でやっているのがわかるから
拒否する事は出来ずに大人しく隣を歩く。

根は優しい人なんだというのもわかる。
だからこそ、きっと誰かに求められると断れない。

指先が触れる距離。
段々と触れ合う時間が長くなって
きゅっ、と2人の指先が結ばれた。

「何このつなぎ方」
『…今は、これで勘弁してください』
「ん、いーよ」

彼の冷たい指先を、軽く握る。
それに返すように彼の指も私の指先を握った

…なんだか、この人が来てから調子が狂う。

まるで気まぐれな猫のようだ。
散々遊んどいて、相手するのが飽きたと突き放す。

考えてるうちに駅に着き、
絡んでいた指は簡単に解けた。

「じゃあ、また明日ね。先輩」
『仕事はしっかりお願いしますね』
「ふは、分かってるよぉ」

改札を通って振り返ると、ヒラヒラと揺れる手。
彼の目を見れないまま軽く振り返して
駅のホームへと向かった。

そういえば、黙ってラーメン奢ってくれたな。

彼のマフラーに顔を埋めて、そんな事を思い出した。