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「俺のこと、辰哉くんって呼んで」
『たつ…え。』
「え。じゃなくて。2人の時は、そーやって呼ぶの」
pm 19:32。
ソファで仲良く肩を並べて、
2人の手に握られているのはゲームのリモコン。
仮にも歳上でしょ…あなた。
男の名前くらい、サラッと呼べないとダメよ〜と
口うるさい母親のような言い方に腹が立つが
恋愛において、私よりレベルが上なのは確かだ。
『…辰哉くん』
「聞こえなーい」
『ゲーム音下げましょうよ』
「Aちゃんが声出しましょーね」
画面から目は動かさずに言う深澤…いや、辰哉くん。
『……辰哉!!くん!!』
「おお」
『おお、ってなんですか』
「いや?声出んじゃん。名前呼ばれるのって悪くないねぇ」
嘘つけ、呼ばれ慣れている癖に。
あの受付嬢にも営業課の後輩にも
甘ったるい声で名前呼ばれてんの知ってんだからな。
そんな気持ちを込めてキッと睨むと
だいぶ反抗的になったよねえ、と笑う。
意外とよく笑う人だと思う。
それが本心なのか、女性相手に向ける演技なのかは分からないが。
「じゃ、A」
『ッッ』
「名前呼ばれたくらいで動揺しないの」
それ以上の事色々するんだからさ〜と、ゲーム機を静かに置いた。
いつの間にか私の画面には『loss』と書かれており
テレビゲームにもまんまと負けてしまった。
「俺、上手だからねゲーム」
『知りませんそんなの』
「いやぁ知っとかないと。彼氏なんだから」
__俺の好きな物も、好きな事も、好きな食べ物も
どんどん覚えたら、俺に染まっちゃうかもね?
そう言ってスラスラ嘘ばかり並べるのが上手いのだから
会社員なんかせずに詐欺師にでもなった方がいいんじゃないの。
『染まりません、絶対』
「言うね〜、どうかな」
『絶対、素敵な人と幸せになるんだもん』
「良いねえ、そうこなくっちゃ」
じゃ、飯いこっか!と急に立ち上がるので
どこに行くのかと尋ねると
''俺の行きつけのラーメン屋さん''らしい。
もしこれが初デートになるのならロマンスの欠片もない。
逆に、フレンチでも連れていかれた方が鳥肌モノだけども。
『わ』
「寒いからさ、これ貸したげる」
気温が下がった今日に限って
家を出る時忘れてしまったマフラー。
玄関に向かう彼にちょこちょこ着いていくと
首元に巻かれたのは彼のマフラーだった。
『でも、深…辰哉くんのは』
「俺はいーの、頑丈だから」
…嘘、毎日カイロ握って出勤してるくせに。
そう思ったのは口にせず、彼に続いて外へ出た。
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作者名:蒼 | 作成日時:2024年2月26日 2時