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残念ながら昨日のように酔っ払ってはいない。
だからなのか、昨日よりもしっかりと感じる慣れない感覚。
こんなに細くても、男の人なんだ。
どこか冷静なままの頭でそう感じたのは、
彼の胸を力いっぱい押してもビクともしないから。
息を吸おうと口を開くと、喰われるように貪られる。
それを何回か繰り返して、ようやく身体が離れた。
『…っは、くるし、』
「やっぱ慣れてないんだねえ」
『っ！ふざけないで』
「怒っても怖くないってば」
''むしろ、顔真っ赤にして睨んでんのかあいいよ''
無意識で、反射的に手が出たのがわかった。
でも私の手のひらが彼の頬に届く事はなく、
掴まれていたのは私の方。
「…ね、泣かないでよ」
『っう、』
「あのね、俺、虐めたいわけじゃないんだって」
嗚咽で言葉が出ない。
最低、最悪。罵倒する言葉が頭を回るだけで。
「27歳、彼氏無し、恋愛経験値0。」
「その経験値、少しはあげたいでしょ」
滲む視界の先に、真面目な顔をした深澤さんが見えた。
言ってることはごもっともだ。
「だから、俺と付き合おーよ」
『…はぁ？』
「あ、本気でじゃないよ？仮ね、仮。」
俺は女避け、Aちゃんはレベルアップの為。
そう言いながら掴んでいた私の腕を離した。
「どう？好条件じゃない？」
女遊びをしたい訳では無いらしい。
ただ、求められるから応えるだけで飽き飽きしたと。
馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しいけど、負けず嫌いなのは私の悪い性分だ。
『………いいですよ、いいですとも』
「じゃあ、成立したってことでいい？」
目の前の男に、どう反撃すればいい？
酸素が回らないまま、必死に頭で考えた。
＿＿＿もしこの人が、私の事を好きになったら？
そうしたら、こっぴどく振ってやるんだ。
それまでは異性と過ごす事で経験になるし、
女の子を誑かして来たこの人間に、反撃出来るかもしれない。
しょうもない闘争心で
まんまと彼の提示した条件をのんだ私は
まるで毒に溺れる蝶の如く、
彼の差し出した手を握った。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年2月26日 2時
