9 つの朝顔 (ページ35)

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『……ちょっと待て待て待て』

一気に冷めていく酔い。
既読はあっという間に8になった。…ってことは。

それに気づいたと同時に、私の携帯に着信が入った。
名前はみらずともわかる。…翔太、その2文字だった。

「ほら、釣れたでしょ？獲物」
『…なんて悪い男なの』
「ふふ、頭がいいって言ってよ」

ってことで、俺はお会計しとくからね〜と個室を出ていった。
今1人にする？普通。

半ば諦めて、電話に応えた。いつもは翔太からかかってきても、4コールも出なければ切られるのに。今日はずっとなり続けた着信音。

『……もしもし』
〈今どこ〉

あからさまに怒った声。…そりゃそうだ。
付き合う時、約束した。''黙って''異性とご飯に行かないこと。行く時は、必ず報告すること。

阿部ちゃんは友達だし、メンバーもそれは知っていたから勝手に平気かと思っていたけど、そこまで甘くなかったようで。

『お店、です』
〈場所は〉
『…中目黒、もう帰るところ』
〈…タクシー代渡すから今から真っ直ぐ俺ん家来い、絶対〉

その圧に圧倒されて小さく返事すると、切られた電話。

「お、終わった？」
『阿部ちゃあん……』
「あらあら、半泣き状態」

タイミングよくあいた襖。泣きつきたいところだけど、阿部ちゃんは絶対大丈夫だからしか言わずに平然とした顔でタクシーへと乗り込んで行った。この薄情者。

諦めて私もタクシーへ乗った。しっかり2台呼んでくれるあたりが、阿部ちゃんの優しいところだけど。
彼の家の住所を告げて、窓の外をみる。
変に嫉妬して怒ったし、約束も破ったし、フラれちゃうかもな。
そんなことをぼんやり考えた。

『っはー……』

30分後。彼の部屋の前に立ち尽くす私の姿。合鍵でエントランスを抜けたは言いものの、この部屋のチャイムを鳴らす気になれなくて。

いや、でも仕方ない。そう思って押そうとした瞬間、勢い良くひらいた目の前の部屋の扉。

「っ」
『っあ…』
「は…っ、ついたなら、言ってくんない」
『えと、ごめん』

どこか焦ったような彼の姿があって、私の姿を見た瞬間安心したようにため息をついた。

「……ん、上がって」
『お邪魔、します』

見慣れた部屋のはずなのに空気が重い。廊下をぬけてリビングへいくと、あんなに綺麗好きの彼の部屋が少し散らかっていて。

『……翔太、あの』

何か言わなきゃ、口を開いたと同時にその腕の中にぎゅっと閉じ込められた。

「絶対、俺無理だから」
『…へ？』

その後に聞こえた予想外の言葉。