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『すみません、うっかり』
「いえ、気にしないでいっすよ」
俺が前にいて良かったです。とにっこり笑顔に、きっと色んな女の子が惚れ惚れするんだろうなと思う。
「ラウール、顔。」
「…へっ?」
「あは、わかっかりやすお前」
私はラウールくんの顔を見ることができなかったし、二人の会話の内容は分からないけど、仲がいい2人にしか分からないこともあるよね。そんなこんなで、順調に衣装合わせは終わって。
「よし、じゃあ1つ目の撮影行ってきます」
『はい、頑張ってください』
失礼しました、と丁寧に頭を下げてドアを閉める。私の方が目黒さんよりは年下なのに申し訳ないけど、きっと彼のブレない人間性。
『あれ、ラウールくんは?1回戻らないの?』
「んー…」
今日は目黒さんの撮影の後に、ラウールくんの撮影。それまで相当時間あるはずだけどな。
いてくれる分には迷惑じゃないし、私も嬉しいし。
好きな時に出ていいからね。そう告げて、小物を整理しているとき。
「…Aさん、思ったよりちっちゃいね」
『っ!』
後ろから、ふいに抱きしめられた身体。
『ラウール、くん?』
いきなりの事で頭が回らないというか、その少し甘い香水の匂いにクラクラして。
「…俺さ、結構ヤキモチ妬いちゃうんだよね。」
『ヤキモチ…?』
「そんな俺の事どー思う?」
腕が離されて、体が向き合う。
いつもの可愛らしい雰囲気はなくて、真剣なその目。目にかかる前髪のせいで、また色気が際立っていて。
『どう、って』
「俺ね、Aさんのこと好き」
その言葉に、胸が鳴る。…好きって、言った?
「だからさ、自分の番じゃないのにみんなにくっついて衣装合わせ来るし、毎回Aさんの担当って分かったらいつもよりメイクも気合いいれちゃうし。」
「…結構、アピールしてたんだけど」
その耳が少し赤いことに気づいて、ふっと笑ってしまった。
『ラウールくん、私もね、好きだよ』
「…へ、ほんとに?」
『うん、ホント』
「めめじゃなくて?俺だって歳下だよ、子どもだよ」
『そんなラウールくんも好きなの』
さっきまであんなに大人っぽい雰囲気だったのに。今では嬉しそうな顔をして、大きな瞳を向けてくる。
「やっ…た、え、嬉しいんだけど」
『でも内緒ね、私たちだけの秘密だよ』
そう言うと少しだけ残念そうな顔をしたけど、もう一度私を抱き寄せて、耳元で言った言葉。
(…でも俺しかしらないAさん、特別でいいかも)
(あんまり、歳上をからかわないの)
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作者名:蒼 | 作成日時:2024年2月25日 20時