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『だいちゃん』
「…なぁに?」
『やめよう、もう』
何となく、頭によぎっていた言葉。恋人ではないのに愛し合う行為。
本当は好きなのに、自身の肩書きのせいで
言えないもどかしさもあって
苦し紛れにその行為中、彼女の名前を呼ぶしかできなかった。
抱くのも、それを求めるのも俺から。
彼女は黙ってそれを必死に受け止めて
俺に抱かれながら、切ない声を上げる。
「ねえ、今日言いたいことって…それだけ?」
『…っ、』
期待を込めた言葉。
ねえ、好きって言ってよ。俺がいないとダメだって。
俺以外の男なんか、好きになれないって。
口にしない彼女の気持ちも、どこかで分かっていた。
それが俺の為だと言うことも、
俺に抱かれながら、いつも泣いていることも
……本当は、わかってるのに。
嘘じゃないっていってよ。
本当はこんな深夜の2時じゃなくて、暗がりのベッドの上じゃなくて。眩しくて、美しい青空の下でその笑顔が見たかっただけなのに。
『そう、それだけだよ』
「…っ俺は!」
『だいちゃん、お願い…おねがい、だから』
必死に涙をこらえて笑う彼女に
''好きだ''という言葉を飲み込んだ。
こんなに好きなのに、愛し合ってるのに
……ねえ、俺はさ。
言いたい言葉も言えないまま、彼女の家の前に着いた。
いつもは席を立ち、またねと手を振る彼女を見届けるのに
今日は2人とも、動けないままで。
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作者名:蒼 | 作成日時:2024年2月25日 20時