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わかっているのだ。基本的に明るくてポジティブシンキングを胸に掲げる自分らしくないのは。やめたい、楽しくない、と。切に願い思ったのだってあれが最初で最後だし。
不貞腐れていれば、グルッペンは柔らかに笑う。それはまるで赤子をあやすようで、いつもの邪悪な面はなかった。…そんな顔、初めて見たかも。
「さっきも言ったが、別に隠すことでも無いやろ？俺は単に、音楽経験がある友人というものに憧れを抱いているだけだしな」
「…。ところで、なんで私がピアノやってるってわかったの？」
「お前、あからさまに話題そらしたな」
じと、睨まれる。許してくれ、先程からはじめの動揺を引き摺ってて話すにはまだ頭の中の整理がついていない。
少し眉を下げて見つめ返せば、ため息ともにふい、と顔を逸らされる。やはり彼、友人にとていもなく弱い。
「今日の4時限目、音楽だっただろう。リコーダー、楽譜に音階振っとるわけでもないのにスラスラ読んどるのが気になっとったんじゃい」
「え、授業中ずっと私のこと見てたんですかー？やだぁグルッペンのえっち！」
「喧しいわ！」
今度こそ強めに蹴られて、軽く悲鳴を上げる。あまり巫山戯すぎるのも良くないようだ。いやまぁ見えてたのは、単にペア組んでたし席隣だからなんですけど。知ってたよ。
…まあ、そうして巫山戯ている間にも、少しずつ冷静になりつつある。一つ息を吐けば此方が話すと察したのか、背けていた顔を戻された。
「整理がつかなかったんだ。いざ弾こうとすると嫌な事まで脳裏に浮かぶから。だから、そもそもそんな記憶なかった、って。閉じ込めたほうが楽だって」
「それでやめたのか」
「…うん」
「じゃあ、俺と弾くか」
「話聞いてたか？」
突拍子もない、というか、今の話を聞いていればまず出てこないであろう言葉にドン引く。
こいつ、もしかして人の心が無いのだろうか。それか人の話を理解する脳すらないのか？
「ピアノを弾くことが嫌になっただけであって、ピアノ単体が嫌いなわけやない。だろ？」
「そりゃあまあ…私の趣味の一つだし」
「なら、楽しいことで上書きすりゃあええ」
笑う。
それは太陽のように眩しいようで、しかし悪事を企てる少年のような無邪気さがあった。
「連弾。好きか？」
「…す、きだけど」
「ははは！じゃあ決まりだな。明日の放課後に音楽室借りるゾ！」
「は！？そんないきなり……っはあ…まったく。先生に許可ちゃんと取ってよね！」
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作者名：森樂 | 作成日時：2021年1月24日 14時
