追憶 ページ33
「「「いただきます」」」
その一言で賑やかな朝食が始まる。
私の隣にレイ、レイの正面にノーマン、その隣は空席になっている。
エマの席だ。
「ミルクポッド取ってくれるか」
「シェリー、口にパン屑ついてるよ」
「A！バケットに手が届かない！」
『あらあら、これで良いかしら？』
私が食堂に顔を出すと毎日のように起こる席の争奪戦。
今日の勝者であるエヴゲンのためにバケットを手前に引き寄せてやる。
バケットから取り上げたパンを口に運んでから、淡々とくり返される日常に疑問を抱く。
彼、彼女がいないのにまかり通る日々。
変わらず紡がれる日常。
存在は薄れ記憶が滲み、いないことが当たり前になって、涙した生活に順応していく。
彼の名前を耳にすることもなくなった。
口の中で反芻するが音として出したこともない。
二度と手に入らないものを夢に見て良いのは、目覚めて浮き彫りになった現実に耐えられるものだけなのだ。
私にはできなかった。
あんなに美しかった日々にも埃が積もっていく。
彼と過ごした日々が過去となって歴史となって神話になっていく。
私はそれに耐えられなかった。
「感情」が人間に与えられた地獄の鎖だとするならば、きっと「忘却」という機能が生命存続の為の蜘蛛の糸なのだ。
咀嚼した小麦粉の塊を喉奥へとミルクで流し込んだ。
『出発は、明日だっけ』
午後。
私の病室を訪ねてきてくれたレイに一瞥もくれずに問いかける。
彼は申し訳なさそうに「そうだ」と答えた。
寂しいな。
私も行きたいのに。
その心情を隠して『今日は空気が澄んで綺麗だね』と笑う。
もう、こんなこと言ったってレイにはバレバレでしょうね。
レイ「……A、行くぞ」
『え？行くってどこに……きゃっ』
レイは一瞬にして私を引き寄せ抱き抱えたかと思うと、そのまま部屋を飛び出す。
ノーマン「レイ？A？ちょっとどこ行くのっ」
廊下ですれ違ったノーマンが目を丸くしていた。
レイは階段を駆け降り、庭園へと出た。
芝生の上に私を下ろす。
レイ「よし、間に合った」
レイは腕時計に視線を落としながら言った。
私は走っていないにも関わらず、激しい運動をした後のように心拍数が上がって息が切れていた。
『間に合ったって、なにを』
レイ「A周りを良く見て。覚えたら目を瞑るんだ。俺がいいもの見せてやる」
『いいもの…？』
意味がわからないまま、私は周囲を見回した。
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鯛だし塩ラーメン - 本当にないてしまいました。作品のクオリティもそうですが、今もガチ泣きしています。軽い気持ちで読み始めた作品でしたがクオリティの高さに驚き感銘を受けました。これで読むのは2週目ですがこの作品は月一で読みたいです。 (2月23日 0時) (
レス) @page49 id: fe38abeccf (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無％(プロフ) - 何回も読み返します、色々伝えたいことはあるのですが、流石に失礼します！ほんとのに大好きです‼︎長文失礼しました (2023年1月10日 9時) (レス) @page49 id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無％(プロフ) - ずいぶん前ですけど、完結おめでとう御座います!本当に泣いてしまいましたし、言葉などとても綺麗です!物語ももちろん解説などとても感動しました!自分の好きな書き方で、とても尊敬しています。長編お疲れ様でしたずっと応援させて頂きます!とても楽しく面白かったです (2023年1月10日 9時) (レス) @page49 id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
未麗 - 感動しました〜〜(T ^ T) ピーターとの関係性、家族愛、レイとの物語（？）全てに感動しました。これからも頑張ってください。応援してます！！ (2022年11月7日 10時) (レス) @page49 id: 68238521a7 (このIDを非表示/違反報告)
Luna - 途中でちょくちょく泣いちゃうようなお話でした！とても面白かったです！こんな素敵な作品を書いて下さりありがとうございました！ (2022年9月19日 1時) (レス) @page49 id: 3d29eeb498 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アイリス | 作成日時：2021年10月27日 7時
