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傘 宇田川優希 ページ47

コンクリートの奥底の匂いが充満している。

バケツをひっくり返したかのようなくらいの雨が降り注いでいる。

やむ気配は一向もない。
私はただ呆然と屋根の下から外の状況をじっと眺めていた。


そういえば、優希が今日、雨が降るらしいよと言っていたような気がする。

朝には勝てない。
寝ぼけていた私の頭にはそんな言葉は右から左へと流れていっていた。

『どうしようかな…。』

傘を買うか、濡れながら帰るか。
こんな寒い日に濡れて帰ったらきっと風邪をひく。

でも、わざわざ買いに行くのは面倒くさい。

どうせ行く途中で濡れるし、お金の節約になるかな。

と、思い、私は土砂降りの中へと飛び出した。


思ったより雨は冷たかった。
一瞬でずぶ濡れになってしまった私の体から体温をじわじわと奪っていった。



すると、急に私の周りから雨の音が消えた。


「だから、雨降るって言ったじゃん。」

半ば呆れたというような優希の声が上から降ってきた。
声と一緒にため息も降ってきそうな声だ。

顔を上に向けると、案の定、眉をひそめた優希の顔があった。


『わざわざありがとう。優希。』

「ん、帰るよ。」

ひんやりと冷たくなった私の手をぎゅっと握って、優しく引っ張ってきた。


会話はなかった。
でも、不思議と気まずくはなかった。


気づけばもう家の玄関の前についていた。
彼は手慣れた手付きで鍵を開け、少し重たい扉を思いっきり開いた。

彼は家に入るなりバタバタと洗面所に向かっていった。

私は外よりもぬくい部屋の温度をただぼぅっとゆっくりと感じていた。


少しすると、優希が洗面所から走ってきた。

白いふわふわとしたタオルを私にがばっと被せる。
私の視界は真っ白に染まった。

がしがしと乱暴に頭を拭かれる。

「もう、だから今朝言ったのに。」

『えへへ、ごめんね。』

いじけたように頬を膨らませた彼が可愛かった。


『ただいま、優希。』


「おかえり、A。」

マフラー 周東佑京→←壁ドン 山田哲人



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ゆとう(プロフ) - 夜さん» こちらこそ毎回素敵なリクエストありがとうございます!非常に助かっております…!続編書くことにしました!🙂これからもよろしくお願いします!! (12月2日 14時) (レス) id: 94228774a9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆとう(プロフ) - Mさん» ありがとうございます!😄そう言って頂けて嬉しいです!😆続編書くことにしました!これからもよろしくお願いします😀 (12月2日 14時) (レス) id: 94228774a9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - いつも素敵な小説ありがとうございます✨ 1章完結おめでとうございます!ゆとうさんの書く小説とても好きなので是非続けて頂きたいです! (12月2日 11時) (レス) id: 56a1cf3ff0 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - ゆとうさん» もちろんです!またぜひお願いします☺️!ゆとう様のお話毎回更新楽しみにしてるので是非続編も書いて頂けたらと思います🥰 (12月1日 23時) (レス) @page50 id: 12bc3fbac6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆとう(プロフ) - Chocoさん» リクエストありがとうございました!😁返信が遅れてしまい申し訳ございません…。期待に添えられていそうで嬉しいです😄またのリクエストお待ちしております🙌 (11月28日 6時) (レス) id: 94228774a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆとう | 作成日時:2023年9月3日 17時

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