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別に桜が嫌いなわけじゃない
その周りの人混みが嫌いだ

大きな桜の名所ともなれば、ゆっくり桜を見ることなんて到底できやしない

大声で笑う酔っ払い、走り回る子供
どうせみんな桜なんか見ていない

それなら、静かに葉が落ちていく秋の方がよっぽど好きだ




そう思っていた、いつかの春

行先も言われぬまま君に手を引かれて来たのは、町外れの川沿いにある桜並木だった




『阿部ちゃん、人多いの苦手でしょ?
ここなら人も少ないからゆっくり桜見れるかなって思って…』




そう言って、少しだけ不安そうに俺の顔を覗き込んだ君


綺麗に並べて植えられている桜は見事に満開で、思わず目を見張るほどだった

加えて、近くに住んでいる人しか知らないような辺鄙な場所だからか、ほとんど人がいない



あぁ、なんて素敵な恋人を持ったんだろう

胸の奥がぶわっと温かくなって、勢いのまま君の頬にキスをした




「ありがとう、
今まで見た景色でいちばん綺麗だよ」




そう伝えれば、君は頬を桜と同じ色に染めて微笑んだ

それからは君と見に行く桜が楽しみで、春が1番好きになった










そして、今日が君と過ごす最後の春


いつもの癖で洗濯物を干している自分がいて、でも洗濯カゴには君の物しか入っていなくて

あぁ、もう最後なんだ
俺が洗濯物係で、君が皿洗い係
皿洗いの方が早く終わるから、いつも君はベランダで洗濯物を干している俺にちょっかいを掛ける


でも、今日は最後だっていうのに君はソファに座ったまま動かない

ねぇ、どうしたの?
こっち来てよ

そう言えたら良いんだろうけど、今の俺にはそんなこと言う資格もないから




お別れしようと言ったのは、俺だから


世間の理解も少しずつ広がってきてはいるものの、まだそれが“普通”になったわけじゃない
男同士が手を繋いで街を歩いていたら、ギョッとした目で見られるなんてよくあることだ

それだけならまだ良かったけど、君の将来を考えたら不安で不安で仕方なかった
もちろん子供は産めないし、これから先も幾度となく普通の人は経験しないであろう壁にぶつかると思う


だったら、君には普通の幸せな人生を生きてほしい
人間なんて何十億といるんだ、
俺じゃなくたって君と一生を共にできる人はきっとたくさんいる

君は優しいから、俺がいいって言ってくれたけど
君が俺と出会わなければ存在しなかった障害に苦しむところなんか見たくなかった

結局のところ、そんな自分本位な理由だった

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作者名:よみ | 作成日時:2022年4月17日 23時

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