paradigm

誰よりも大切な君へ ページ39

ab side







『もうすぐだね？』

「うん、もうすぐ」



時計の針は1番上の少しだけ左側

部屋には秒針の音と、僅かな衣擦れの音しかない



『記念日最初の言葉どうしよっかな』



記念日最初の言葉とか、聞いたことない

普通におめでとうでいいだろ



『どんな顔すればいいのかな』



どんなって、普通の顔でしょ

まさか変顔なんかしないでよ？



「…あ」

そんなことを言っていれば、もう30秒前



『あべちゃん10秒からカウントダウンしよ』

「はいはい」



キラキラした目で時計を見つめる姿は、○太にも負けないくらい5歳児っぽい。



『にじゅうっ、じゅーきゅ、じゅーはち、』



待ちきれなかったのか、20秒前から1人でカウントダウンを始めた



…かわいいな。

日常の小さなことも全力で楽しんでいるから2人で暮らす日々は笑いが絶えない

口には出さないけど、ネガティブな俺を変えてくれた間違いなく佐久間で、本当に感謝してもしきれない

もし俺が暗いところに落ちてしまっても、
きっと、いや絶対に佐久間は手を引っ張ってそこから救い出してくれるから


だから、俺も佐久間を幸せなところへ連れて行ってあげたいな



『じゅーうっ、ほら、あべちゃんも！きゅー、はーち、なーな、』

「ふふっ、なーな、ろーく、」



俺と手を繋いで、ぶんぶんと振る佐久間

加えて座りながら跳ねるから、隣にいる俺までぐわんぐわんと揺れる



1人で静かに勉強するのが好きだったはずなのに、佐久間と過ごすようになってから隣に温もりがないと寂しくて堪らなくなって、


『ごー、よん、くるぞっ！』



頭の中は学校で習う知識ばかりだったはずなのに、いつの間にかアニメや動物についても詳しくなっていて、



『さんっ、にー！』



頑固で頭の固い俺は恋愛とは無縁だと思っていたはずなのに、気付いたら一生をかけて守り抜きたい人ができていた



『いちっ、…いぇーい！あべさく記念日ー！』

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