19. ページ28
連れてこられた先は厨房だった。
沢山の汚れた食器や鍋やフライパンなどが積み上げられている。
「あの、一体なにを…」
「まず、脱げ」
「はい!?」
突然のことに目を点にしていると、ジャミルさんがまた上から私のことを見下ろしながら言った。
「いいからブレザーを脱いで、ブラウスの袖をまくれ。」
「はい………」
なんとなく何を言われるのか察した私は、その圧に負けて渋々ブレザーを脱ぎ、言われた通り袖をまくった。
「それでいい。これから君にはここで食器洗いをしてもらおうと思う。」
(……だと思ったよ!!)
「…まさか、この山を全部ですか?」
「ここだけじゃない。広間のテーブルに残ってる食器も含めて全部だ。」
「う、嘘ですよね?……しかも、私一人ですか?」
厨房を見渡す限り、私の他には誰もいないみたいだった。この量を一人で洗うとなると、一体どれだけ時間がかかるんだろうか…。せめて数人お手伝いがいてくれても………
「全て君一人でやってもらう。」
「ええええ!?」
「スカラビアの雑用係なら、これくらいはやってもらわないとな。」
「待ってください、せめて数人のお手伝いとか……。ジャミルさんだけでも手伝ってくれないんですか?」
「あいにく俺は別の用事がある。他の寮生達も部屋に戻って自習するようにと言ってあるから、誰もこないだろうな。」
「なっ…自習!?そんなのが用事なんですか!?こんな量私一人じゃ到底むり…」
「つべこべいわずやれ。君は今日タダで飲み食いして、タダで泊まって行く気か?……君は『客』じゃなくてスカラビアの『雑用係』だろう?しっかりと食べた分働くんだな。」
やけに冷たい言い方だった。しかもさっきまでとは全く違う、まるで初めて会った時と同じ私を見る目だ。
さっきまで「最高の環境!」とかいって浮かれていた自分を殴りたい。
ジャミルさんは、洗剤やスポンジ、洗った食器を戻す場所などを簡単に私に教えてから、後は頼んだからといって足早に去っていってしまった。
「……な、なんなのあの人…」
なんだかんだ世話焼きで優しい人かと思ったけど、前言撤回。ただの最悪なドS野郎だ。
わざと私に色々食べさせて、泊まらせる約束をしてから仕事を頼んだのだ。そうすれば私がやらざるを得ないということを分かっているから。
段々とムカついてきたが、このまま何もしないでいても状況は変わらない。
私はスポンジを手に取って、食器を洗い始めた。
62人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リオ - 更新頑張ってください! (2021年2月27日 14時) (レス) id: af465deb02 (このIDを非表示/違反報告)
星 - 小説とても面白いです!私はカリムとジャミルが大好きです!更新頑張って下さい! (2020年12月12日 16時) (レス) id: 43b4052d04 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:らの | 作成日時:2020年11月8日 19時