《１５０》 ページ5
「…あとはここを真っ直ぐいけば、おまえの言ってた所に出るはずだ」
一つの路地を指さし告げる男の子に釣られ、私はその先を見る。
路地から覗く少し離れた先に見える看板には、兄とよく訪れていた洋菓子屋の文字が見えた。
「ありがとう！あかとくろのおにいちゃん！」
「気をつけろよ」
じゃあな、と言って手を振る男の子に私も手を振り走り出す。
少し進んだところでふと振り返れば、男の子は立ち去ることなく私の姿を見つめていた。
数歩進んでは振り返り手を振って、を何度か繰り返しても男の子は立ち去る様子はなく、どうやら私の姿が見えなくなるまで見送ろうとしてくれているのだと気づいた。
それがどうにも切なくて、私の体は気付けば来た道を引き返し男の子の元へ駆け寄っていた。
「どうした…？何かあったか？」
困惑した表情で息を切らす私に近寄る男の子。
声にならない声で言葉を紡ぎ、首を横に振りながら顔を上げれば私の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
正直何故涙が溢れたかはわからなかったけれど、要因があるとすればただ一つ。
「さ、さみしくて…っ！おにーちゃん、もう、あえないのかなぁ…？」
短時間ではあったが、折角出会えたこの縁と、兄のように慕えたこの時間に終わりを告げることが名残惜しかった。
いやだいやだと泣きじゃくる私を前に、男の子は戸惑いながらも私の涙を拭う。
その後差出された小指に私が首を傾げると、約束だと言って言葉を続けた。
「俺は何があっても毎日10時にここに来る。おまえは来れる時に来ればいいから、会えた時はまた遊んでやるよ」
「……ほんと？ぜったいぜったい、やくそくだよ…？」
男の子の差し出す小指に自身の指を遠慮がちに絡めれば、その指はきつく紡がれる。
「あぁ、絶対だ。俺とおまえだけの約束だからな」
ニッと、歯を見せて笑う男の子が照れ臭くて、笑はふにゃふにゃな顔で笑みを浮かべた。
再び走り出した私に向けて男の子は、きっと姿が見えなくなっても叫んでくれていたんだろう。
またなと叫ぶ男の子の声はしばらく私の耳に響いていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
