《１７５》 ページ30
【XANXUS side】
引き取られてからの毎日は、地獄そのものだった。
スラム街で生きてきた俺が唐突に何処ぞのデカいマフィアのトップに君臨するのだから当然と言えば当然かもしれないが、待っていたのは勉強するだけの日々。
朝からマナー講習を受けさせられたかと思えば、次いで訪れるのは語学。
その後は戦闘訓練だと毎日吐くほど同じ事を教え込まれ、自由になるのは就寝前と就寝後だけだった。
幸い、あんな所で生きてきたからこそ無縁だった勉学は、受けていて楽しいと思えた。
戦闘訓練なんかもあの女を守るためなら必要不可欠と思えばなんて事ない。
唯一許せなかったマナー講習だけは、何度もサボろうとするたび使用人に連れ去られ強制的に受けさせられた。
歩き方や挨拶、食事の所作なんざ当然のように繰り返し叩き込まれ、気づけばロボットのように俺の体は教え込まれたように動くようになっていた。
そんな毎日に嫌気が差し、いい加減あの女に会いに行こうにも、自由な時間が無いからこそ会えない日々が続く。
「……あいつ、泣いてんじゃねえのか」
いや、俺に会えないからと泣いてくれる人間なんざ居るだろうか。
自分の小さな呟きすらも疑問に感じた俺はその言葉をすぐさま自分の中で訂正する。
あの女には心底大事にしてくれる兄がいる。
俺なんかよりよっぽど強くて頼り甲斐のある兄なんだろう。
以前、嬉しそうにそう自慢していたあの女の笑みが不意に頭の中へ浮かべば、苛立ちが腹の奥底から沸いてきて、気づけば俺の周りは荒れ果てていた。
「ざ、XANXUS様ッ！？何をなさって…っ」
「うるせえ。俺に指図するんじゃねえ」
唐突にガラスの割れる音が鳴り響けば、すぐさま使用人が部屋へ駆け込みその光景に驚愕する。
手から滴る俺の血なんざには見向きもしないその使用人が俺の怒りを増幅させ、気づけば手には憤怒の炎と呼ばれるものを俺は宿していた。
「な、っ…お待ちください！XANXUS様！！」
「俺に指図するんじゃねえって言ってんのが聞こえねえのか？あぁ！？」
殺してやろう。こんなカスみてえな人生に縛り付けられるぐらいなら、
そう思い宿る炎を目の前の証人に突き出せば、辺りは眩しい光に包まれた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
