【REBORN!】だいすきお兄ちゃん【４】 (ページ28)

今日:2 hit、昨日:30 hit、合計:3,430 hit

《１７３》ページ28

【XANXUS side】

初めて人前で泣いた。

女に守ってもらったと言う事実が屈辱だった訳じゃない。
ただ、母親すらもまともに見ようとしなかったこの俺を、あの女は唯一真っ直ぐに俺を見てくれた。
スラム街で生きているから汚い、臭いと、何度も無駄に拳を振るわれてきた俺に初めて笑いかけてくれた。
躊躇いも無く俺を見ればこの胸に飛び込み、会いたかったと泣いてくれた。

いままで生きてきた中で一度たりとも向けられる事が無かったその感情に、どこかくすぐったく感じることは幾度もあったけれど、向けられた感情に対して不快と思うことは一度となく、溢れるのは嬉しさだった。
しかしそれと同時に俺を実の兄と同じように慕い甘えるあの女の笑みを、あいつの本当の兄は毎日独り占めをしているんだと思えば、嫉妬にも似たような感情が湧いてくるのは簡単でもあった。
そのどす黒い感情が日々渦巻く中でも、この女と過ごす束の間の時間だけは誰も知る事がない2人だけの時間だと思うと、優越感すら生まれる時もある。

次はいつ会えるだろうか。
今度会う時にあの女にまた俺の気に入った菓子を持っていけば、どんな表情を見せてくれるだろうか。
約束のない約束を交わして見送る背中を見つめながら、俺は次のことを考える時間が好きだった。

それなのに、その日の夕方。
俺は母親に連れられとある人物に会わされた後、この地を去る事が早々に決まった。
髭を生やした男は微笑みを向けて俺に赤いマフラーを巻くと、当然のように手を差し出す。
俺の父親だと名乗るその男の言葉は、ようやくあの女と陽の光を浴びながら並んで歩ける未来を想像すれば悪いものでも無かった。

きっとまたすぐに会えるだろう。その時は俺自身も初めて知った俺の名を、あの女に教えてやろう。
どんな声音で呼んでくれるだろうか。
あぁそうだ、聞き忘れのないようにしねえとな。

俺もお前じゃなくて、名前で呼べるように。

そんな期待した未来が打ち砕かれることになるなんて、俺は知らなかったんだ。