《１７２》 ページ27
あれから守れなかったことを何度か男の子は私に謝っていたけれど、謝られるたび私自身が謝り返してしまうと、少し呆れた笑みを見せていた。
その後は何をするわけでもなく、ただお互いがお互いの手を握り締める時間を過ごす。
その間にも男の子は私に何か聞いてくる様子は無く、自身が殺し屋の家系で育っていることを私は打ち明けられずにいた。
しばし続く沈黙に少しむず痒い感覚を抱いていると、突然握っていた手を離された私は思わず横を見る。
男の子はそんな私を横目に立ち上がれば、目の前に広がるカラフルな箱へ一つ一つ手を伸ばした。
「あかとくろのおにーちゃん…どうしたの？」
「折角お前が持ってきてくれたやつだ。全部食う」
「え！？だめ！きたないよ！？」
進み出した歩みは真っ直ぐ床に転がる菓子へ向かい、ぐちゃぐちゃに踏み散らかされた菓子箱から中身を一つ取り出せば、男の子は躊躇う事なく口に放る。
あぁ…なんて、呻き声にも似た声が私の口から漏れると、続けて聞こえたのは飲み込む音。
一瞬沈黙を挟んだ後、男の子が一息吐けば、私は恐る恐る顔を覗き込む。
「……やっぱり、美味いな」
潰れた菓子箱を見つめながら呟く男の子の口元は弧を描き、私はその姿に何処か安心したように胸を撫で下ろす。
けれど次第に男の子の唇が震え始めれば、次には一つの雫が頬を伝う。
「あかとくろのおにいちゃん…どーしたの…？どこかいたかったー…？」
「…ッ、くねぇよ…」
痛くない。痛くなんかない。
繰り返し何度もそう告げる男の子の紅い瞳からは幾つもの涙が溢れ出し、初めて見るその姿に私はただ戸惑うことしか出来ずにいた。
次第にその場に崩れるように座り込み、声を押し殺して泣く男の子の体を、私はめいっぱいの力で抱き締めながら、暫しの時間を過ごす。
「……なあ、俺、強くなるから。相手が幾らいてもお前だけらは守れる程に強くなってやる」
暫しの時間が経った頃、男の子は涙を拭うなり真っ直ぐに私を見据えてそう告げた。
涙が乾いた男の子の紅い瞳は炎のように燃えていて、私は思わず見惚れてしまう。
—————やっぱり、
あかとくろのおにーちゃんは強くてかっこいいや。
どこか照れ臭さを感じながらもその言葉に力強く頷いた私は、次の約束を交わしてその場を後にする。
後々兄からは大説教を受けるなんて思わず、帰り道は男の子のことで頭がいっぱいだった。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
